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震える指でチャイムに触れる。
いや待て、もし寝ていたら？起こしてしまうのではないか。
右手に持っていた、ゼリーとか薬とか冷えピタとか、思いつく限りの見舞いの入った袋を左手に持ち替えて、姫坂の家の鍵がついたキーケースを鞄から取り出す。
ただ鍵を刺して回すだけなのに、なぜここまで緊張するのだろうか。
念のため連絡入れておいた。既読にはなっていないから寝ていて見ていないのだろう。
急に鍵が開いたらびっくりしないか、いつもだったら気にしないことばかり気にしてしまう。
米屋「………くっそダセェ…。」
扉の前で立ち止まっていると、中から微かに ドン と音がした。
米屋「ヒメ！？」
きっかけさえあればあっさりと簡単に開く扉。
決して広くはない部屋で壁にもたれかかっている姫坂がいた。
『あれぇ……、米屋だぁ……。』
回らない呂律、火照っていて赤い顔。相当しんどいだろう。
倒れたとかではないから安心したが、熱は引いていない。
米屋「薬は？」
『まだぁ……、くすり、きらしてて……。』
米屋「買ってきたからこれ飲め。メシは？」
『昨日の、のこりのスープだけ……、つめたいのたべたい…。』
米屋「ゼリーも買ってきたから、これ食って薬飲んで寝ろ。」
『ありがとぉ……。』
そのあと、用意した飲み物や食べ物を意外にもペロリと平らげた姫坂をベッドに寝かす。
『ありがとね、わざわざ…、明日は学校、行けると思う……。』
米屋「気にすんな。…そんじゃ、またなんかあったら連絡しろよ。」
姫坂の体温の影響か、はたまた自分の体温か、少し暑いこの空間は米屋には毒だった。
米屋が姫坂との関係を今以上に進めたいと望んでいないのは本当のことだが、今の状況は流石にまずい。
さっさと出て外の空気を吸おうと立ち上がって踵を返す。
『あ……、や、いかないで…、』
控えめに握られる袖。
自分よりもひと回り小さいその熱を持った手も、いつもよりずっと弱い力も、全てが風邪のせいだと分かっていても少しずつ米屋の欲を掻き立てる。
「これはいけない」そう思ったが、振り返って見えた顔が想像以上に辛そうで、米屋は長いため息と共に自身の中の欲も吐き出した。
米屋「…分かった。ヒメが寝るまでここに居るから。」
ありがとう と少し口角を上げた姫坂を見て、「あぁ、やっぱり好きだな。」なんて自覚した。
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作者名：通りすがりのいぬ | 作成日時：2022年2月20日 15時
