たくさんの手紙の思い出 ページ43
*
「……え、前座？壮大な惚気話の前座だったの、"夜久衛輔さん"は！？」
私が思わずそう突っ込むと、おじいちゃんは首を傾げた。
「そんな話をした覚えはないんだけどなぁ。僕は確かに、夜久さんの話をしていたはずなんだけど」
「途中から完全に惚気話だった！」
「そう？困ったなぁ……。……夜久さんはね、でも、当時僕が一番恐れた存在なのは確かだよ」
おじいちゃんはまた違う夜久さんからの手紙を手に取って続けた。
「どんなに仲が良くたって、有り得ないだろう？当時高校生の男女の友情。手紙のみが支える関係。ただそれだけだと言うのに、僕が夜久さんに会ったのだって、結婚式の時に一度だけなのに、僕は彼を恐れていた」
「どうして？」
「……彼女、本当に安らぎの笑みを浮かべたんだ。彼からの手紙を読んで、これ以上ないくらいに、優しげなその笑みを。それは、僕に向けたものじゃない。……夜久さんに向けたもの。そう思った瞬間に、恐ろしくて恐ろしくて堪らなかったよ。いつか、彼女を奪われてしまうんじゃないかって」
「、でも、おじいちゃんはっ」
「＿＿＿杞憂だったよ」
おじいちゃんは私に言葉の先を言わせることなく言い切った。
「彼女が彼女たる所以は、彼のような存在ありきだ。僕が今まで、たくさんの人に囲まれて生きてきたように。彼女は、"大切な人"を上書きするのじゃなくて。……増やしていただけなんだって、気付いたんだ」
当時はそれを理解してあげられなかったんだ、とおじいちゃんは言った。
当たり前、だと思う。
おばあちゃんにとって、おじいちゃんこそが唯一の"大切な人"だと言うのなら、分かる。その通りだと、私ですら頷く。
そうじゃない、おばあちゃんの考えを。
理解するだなんて、無理にも程があるんだから。
周りに散らばる手紙の差出人は実に様々、それもほとんどは特別な時に届いた祝いの言葉と思われる、立派な紙のそれら。
その手紙らと同等の、もしくはそれ以上だったのかもしれない"夜久さんからの手紙"は、明らかに異質。
何でもない、そこいらで売っているような便箋にしたためられた言の葉は、おばあちゃんの世界をどう彩っていたんだろう。
……そんな単純かつ明快な問いの答えを、何十年と考えても、答えには辿り着けないんだ。
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西谷彩香(プロフ) - ネーヴェさん» コメントありがとうございます！今回は……「宝物とは」的に書いていた気がします。案外綺麗にまとめられたんじゃないかなと……！これからも色んな作品を書いていきたいと思ってます、よろしくお願いします！ (2018年12月20日 15時) (
レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ネーヴェ(プロフ) - 完結おめでとうございます！！ほかの小説とはまた違う独特の世界観ですごい感動しました。ここまで色々な人に愛されてきた夢主さんは幸せだったと思います。これからも応援してます！頑張ってください！ (2018年12月20日 15時) (レス) id: 39a6bf43e1 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - 蜜柑さん» コメントありがとうございます！楽しく書いていた作品をそうして言っていただけるのは嬉しいです！ありがとうございました！ (2018年12月20日 13時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - 完結おめでとうございます！！最後は泣きそうになってしまいました← いいお話をありがとうございました(?)！ (2018年12月20日 6時) (レス) id: 97574853b7 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ぴのさん» コメントありがとうございます！きっと誰も、"過去"に"後悔"はありません。そんな、それぞれの道に進んだ誰かを書きたかった。楽しかったです。これからも色んな話を書きたいなと思っているので、よろしくお願いします！ (2018年12月19日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西谷彩香 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時：2018年11月20日 1時
