たくさんの手紙の記憶 ページ40
*
「A。手紙が来ているよ」
「ありがとう、誠さん」
誠さんと結婚して数年。
お腹に宿った命を喜びながら、心待ちにしていた手紙を受け取った。
差出人は、夜久衛輔。
東京遠征の際に意気投合し、メール等ではなく手紙でのやり取りを始めたのには意味があった。
彼と手紙で言葉を交わそうと決めたのは、合宿最終日。烏野高校が宮城に帰る、その直前だ。
合宿中、何だかんだと世話になり、その中で何故か込み入った話から恋愛相談へと発展したそれを、衛輔くんは「大切にしたいんだ」と笑った。
『そりゃ、便利だし。メッセージとかのが、いいのかもしれないけどさ。でも俺は、そうじゃないと思う。折角こうして仲良くなれたAちゃんと、消してしまえば消えてしまう文字のような、薄っぺらいことは言いたくないししたくない』
衛輔くんはそう言って、私に手紙でのやり取りを提案して来た。
手紙ならば、文字とは言えど己が手で書き紡ぐ言葉だからと。形に残る、唯一の手段だと。
『こうして出会えたのは、きっと何かの縁で。だからきっと、この縁を大切にしてこそ意味がある、……気がするんだ』
ずっとずっと、続けようと。
お互い、言葉を書き紡ぎ続けようと。
『人に見られるのは、恥ずかしいからな。……うん、そうだな。死ぬ時にでも、一緒に棺に入れて燃やしてもらうか!』
それはいいかもしれない、と同意した私の声に、衛輔くんがくしゃりと笑う。
ずっと大切にし続けるから、と差し出した手に、衛輔くんの手が重なった。
「A。その、夜久さんは……君の、なんだい?」
誠さんの声に、はっと我に返った。
バッと誠さんの顔を見ると、少し不安そうな、少し拗ねたような、そんな顔で、声色で、そう私に問う。
私は一瞬、動きを止めて……それから、くすりと笑った。
「___衛輔くんはね、誠さん。私にとって、失えば私じゃなくなってしまうかもしれないくらい、大切な人……だよ」
誠さんはきょとん、とした顔の後、口をへの字に曲げた。
「……僕は?」
「え?」
「夜久さんが君の大切な人なら、それなら……僕は?君にとって、僕は何?」
「大切な人だよ」
誠さんは「釈然としない、腑に落ちない」と言わんばかりの目で私を見つめた。
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西谷彩香(プロフ) - ネーヴェさん» コメントありがとうございます!今回は……「宝物とは」的に書いていた気がします。案外綺麗にまとめられたんじゃないかなと……!これからも色んな作品を書いていきたいと思ってます、よろしくお願いします! (2018年12月20日 15時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ネーヴェ(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ほかの小説とはまた違う独特の世界観ですごい感動しました。ここまで色々な人に愛されてきた夢主さんは幸せだったと思います。これからも応援してます!頑張ってください! (2018年12月20日 15時) (レス) id: 39a6bf43e1 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - 蜜柑さん» コメントありがとうございます!楽しく書いていた作品をそうして言っていただけるのは嬉しいです!ありがとうございました! (2018年12月20日 13時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - 完結おめでとうございます!!最後は泣きそうになってしまいました← いいお話をありがとうございました(?)! (2018年12月20日 6時) (レス) id: 97574853b7 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ぴのさん» コメントありがとうございます!きっと誰も、"過去"に"後悔"はありません。そんな、それぞれの道に進んだ誰かを書きたかった。楽しかったです。これからも色んな話を書きたいなと思っているので、よろしくお願いします! (2018年12月19日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2018年11月20日 1時