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桜の花弁のピン ページ13

*








暖かさを感じるおばあちゃんの部屋。

私はホイッスルを、部屋の隅に見つけた小さな箱……恐らくはこのホイッスルが入ってた箱に仕舞って、机の上に置いた。


それから、机の引き出しを開ける。

すぐに目に付いたのは、一枚分欠けた桜の花弁を模した形のピン。



「おじいちゃん、これ欠けてる」



私がそう言って横を向いて、ピンをおじいちゃんに見せようとしたけど、おじいちゃんは私の隣で、机上のシンプルなシルバーの指輪をマジマジと見ていた。

それからすぐにハッと気付いたようにその指輪を私から隠すようにそれを握りこんでから、「なんだい?」と答えてこちらを向いた。



「え……あ、……えっと、これ。このピンも……おばあちゃんの"大切な物"かなって。壊れてるし、見る限り古い物だから」


「…………あぁ、それかぁ」


「……おじいちゃん?」



僅かに目を細めたおじいちゃん。

でも、「それかぁ」と呟いたおじいちゃんの声は、少し、ほんの少しだけど、震えている気がした。



「そのピンは、僕も知っているよ。結婚式の時、偶然それを聞いたんだ」


「知ってるの!?」



私が声を上げると、おじいちゃんは驚いたように肩を揺らした。



「うん、まぁ……あんまりよくは覚えてないんだけど、ね」


「おじいちゃん、今年で何歳だっけ」


「ええっと……八十一だね」


「結婚したのは?」


「僕が二十八の時だったから……五十三年前、かな」


「半世紀以上前だね。おじいちゃんとおばあちゃんが若いの、想像出来ない……」


「ははは……そりゃあ、僕達にだって若い頃があったさ」


「このピンが似合うくらい?」


「ははは、素直だなぁ。でも……やっぱり彼女はそれが似合うよ。間違いなく、誰よりもだ」


「誰よりも?」


「そう、誰よりもね」



恥ずかしげもなくそう言い切ったおじいちゃんの声はもう、震えてはいなかった。







*

桜の花弁のピンの記憶→←壊れたホイッスルの思い出



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西谷彩香(プロフ) - ネーヴェさん» コメントありがとうございます!今回は……「宝物とは」的に書いていた気がします。案外綺麗にまとめられたんじゃないかなと……!これからも色んな作品を書いていきたいと思ってます、よろしくお願いします! (2018年12月20日 15時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ネーヴェ(プロフ) - 完結おめでとうございます!!ほかの小説とはまた違う独特の世界観ですごい感動しました。ここまで色々な人に愛されてきた夢主さんは幸せだったと思います。これからも応援してます!頑張ってください! (2018年12月20日 15時) (レス) id: 39a6bf43e1 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - 蜜柑さん» コメントありがとうございます!楽しく書いていた作品をそうして言っていただけるのは嬉しいです!ありがとうございました! (2018年12月20日 13時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - 完結おめでとうございます!!最後は泣きそうになってしまいました← いいお話をありがとうございました(?)! (2018年12月20日 6時) (レス) id: 97574853b7 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ぴのさん» コメントありがとうございます!きっと誰も、"過去"に"後悔"はありません。そんな、それぞれの道に進んだ誰かを書きたかった。楽しかったです。これからも色んな話を書きたいなと思っているので、よろしくお願いします! (2018年12月19日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/  
作成日時:2018年11月20日 1時

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