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花巻が案内してくれたその広場は、規模こそそこまでのものではないにしろ、真ん中に噴水が湧いていたし、小さな展望台のような場所もあり、小高い場所にあるこの場所から、騒がしい街を見下ろせた。
「ここなら、その帽子も取って伸び伸び出来るだろ?」
花巻が不意にそう言った。
私ははた、と気がついた。
言われてみればそうだ、ここまで登ってくるのに苦労したからこそだが、わざわざこんな場所に来ようとする親子も少ないだろうし、何ならそこまで多くない家一軒一軒回ったとて、今しがたの道程ですれ違った人達はご高齢と思しき人ばかりだったから住人はその通りだろう。
前に、花巻の今住んでいる家の住所は聞いていた。
そこから考えても、ここは結構遠い。
そもそも、こんな場所を東京で見つける方が至難の業だ。そこまでのことをやってのけてくれたのは全て、私の為だともなれば流石に驚くし嬉しいし、なんかこう、胸の奥がきゅっとなるしだった。
「……そーだね、空気も美味しいし、ここなら確かに伸び伸び出来そう」
私は帽子を取った。
基本、外に出る時はこれが必需品だった。
デビューを飾ったあの映画は大ヒット御礼だったようで、私は一気に注目の的の1人へと変わり、外へ1歩出ようものならカメラから何からに囲まれてしまう、そんな日々だったがためだ。
それは光栄でもあったし、喜びでもあって、同時に窮屈でもあった。
今までなんと言っても私は割と自由に生きてきたのだ。
宮城という地で、好き勝手に、やりたいように。
だからこそ、ここまで人に注目され、行動を監視されるかのごとくな生活に疲れてしまっていた。防犯やら何やらのそれで最近住む場所すら改めたほどだ(新しい部屋は空にぃも住んでいるマンションの、空にぃの隣の部屋だった。ちょっとこれは不本意)。
そんなわけで、どこにいても窮屈な気がしていた私が、帽子も取って伸び伸びと出来る場所なんてところに連れてきてくれた花巻に少なからず感謝があったし、訳の分からない感情も一緒に浮かび上がってきたのだ。
「……まず、あれ。映画、おめでとな。まさかお前が女優になるとは思ってなかった」
花巻が肩を竦めた。私はケラケラと笑って答える。
「いや、マジそれな。何がどうしてこうなった」
花巻は「おい当人」と苦笑いした。
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西谷彩香(プロフ) - 雄里さん» コメントありがとうございます!こんなに兄弟出したの初めてでした、と言うか何故私はこんなに沢山出してしかも全員シスコンにしちゃったんだろうか。永遠に謎ですね。書いてて楽しかったものが誰かに楽しんで貰えたのは嬉しいです!ありがとうございました! (2018年11月15日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - うー太郎さん» コメントありがとうございます!意外にも見返したら登場人物が多くてラスト一体どうしよーと悩んだ結果あれです、でも割と出せたぜやったね。次回作は別のジャンルの可能性高いのでアレですが!ありがとうございました! (2018年11月15日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
雄里(プロフ) - 完結おめでとうございます。初めからずっと見させていただきました!本当に面白く切ない作品でした。特に好きなところは兄弟全員がシスコンというところです()次の作品も楽しみにしています! (2018年11月15日 23時) (レス) id: e6aa9e061e (このIDを非表示/違反報告)
うー太郎(プロフ) - コメント投稿した直後に更新されたのでし直し!新見でてきた〜嬉し(’-’*)♪ラスト峰口ちゃんらしくて良きです!面白い作品をありがとうございます!これからも期待してまっす (2018年11月15日 23時) (レス) id: c8812ff913 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - shinox2さん» コメントありがとうございます!ううむ、今回で終わりの予定が長引きそうな気がしてきたぞ……兄弟たちのことは間違いなく入れないと「なんで?」のまま終わってしまう……!何とかねじ込みます(笑)ラストまで是非お付き合いください! (2018年11月14日 7時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2018年10月21日 13時