月の光 9 ページ10
*
壊れるくらいに握ったブレーキ。思わず声の方向に意識を向けてしまったせいか、俺はバランスを崩したものの昨日のように転ぶわけにはいかないとハンドルを思いっきり切った。
見事にドリフトした後輪が道路にその跡を残して何とかバランスを立て直した俺はようやく停止した。
すると、パタパタとこちらに近づいてきた灯りと足音。それから声。
「またごめんね、怪我、してない？転んでない……？」
「心配するなら待ち伏せやめろよな!?」
あまりにも泣きそうな声で聞いてくるから、俺は思わずそう突っ込んだ。
橋田さんが持っていたのはどうやら懐中電灯のようだ。
赤い色の本体に錆びやら汚れやらが大量についてるその懐中電灯は随分な年季ものだなぁ、と思いつつ、わなわなと言ってしまった。
スガさんに怒らないで話せよって言われたけどちょっと無理だった。明日ちゃんと謝ろう。
「橋田さん、俺昨日もうするなって言ったじゃん！」
「でもそれ守ったらもう会えないと思って」
「じゃあ連絡先交換したらいいじゃん！それに俺、烏野まで来れば会えるって言ったのに！」
「れ、連絡先交換って、家の電話番号、覚えてない……」
「家？ケータイは？」
「けー……？あっ、いや、持ってないの」
「ふーん……でも、本当に烏野まで来れば会えるから、暗いこの道で待ってるのやめろよな……結構怖かったんだからな」
「やっぱり怖かったんだ」
「……あっ……い、いや、怖くなんかなかったけど！もし俺以外の奴が通ったらびっくりするだろ！」
「じゃあそういうことにしよう。……あ、」
「え!?」
橋田さんは話の途中で視線を少しだけずらして俺の後ろの方を見て突然切り上げ、黙り込むと同時に懐中電灯の灯りを消した。
突然話がストップしたことと、急に真っ暗になったことでパニックになった俺は思わず「え!?」と返して橋田さんが見ていたらしい方に目を向けた。
この近所の人だろうか。
自転車をゆっくりと漕ぐおじさんが、俺と橋田さんの横をすいっと通り過ぎていった。
おじさんの姿が、Ｔ字路を曲がって見えなくなったのを確認したのか、カチッと言う音と共に橋田さんは灯りを付けて、へらりと笑った。
「ごめんね」
「気にすんなよ！」と返すしか、俺には出来なかった。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 25人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「ハイキュー」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
西谷彩香(プロフ) - せみさん» コメントありがとうございます！日向のあの真っ直ぐな感じを活かしてどう作るかを考えた時に偶然登場してた(特に深い意味もないし名前もホントはなかった)合田おじさんが大活躍でしたあっぱれ。そう言っていただけて嬉しいです！ありがとうございました！ (2018年10月6日 12時) (
レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
せみ - 感動しました！！日向は日向のままでいるとこんな作品が出来るのか、、、！とびっくりしました笑 本当に面白かったです！お疲れさまでした！これからも頑張ってください。 (2018年10月6日 10時) (レス) id: ac69ea21d6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：西谷彩香 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時：2018年8月15日 8時
