月の光 25 ページ34
*
宮城に帰ってきたその日、俺はあの道である人を待っていた。
夜も更けた時間になって、ようやくギャリギャリと耳障りな音を伴って、自転車が近付いてくる。
角を曲がった自転車は、俺の姿を確認して止まった。
「おじさん」
俺が呼べば、おじさんは穏やかな笑みを浮かべて自転車から降りると、「見ていたよ。優勝おめでとう」と祝福の言葉をくれた。
おじさんは、それからふっと後ろを振り返る。
何も無い、ただの壁を振り返ってから、また俺に向き直ると、言った。
「僕を待っていたのは、彼女のこと___で、いいのかな」
「はい」
俺が頷いたのを見て、おじさんは「着いておいで」と言って、自転車をカラカラと押して歩き始めた。
歩き始めてすぐ、おじさんは口を開いた。
「君のことは、繋心くん……あぁ、いや、烏養くんから聞いたよ。日向翔陽くん」
「監督から……?なんで、監督、」
「実は、僕は坂ノ下商店の常連でね。昔馴染みなんだ。……あぁ、僕の自己紹介がまだだったね。僕は合田。合田雄己と言うんだ」
おじさんが、そう名乗った。
それから、続けてこう言った。
「彼女の___橋田Aの、元クラスメイトだよ」
俺は目を見開いた。
おじさん___合田さんは、それからへらりと笑った。
「僕はね、橋田のことが好きだったんだ」
「……え、?」
「彼女が死んでしまった時、絶望に打ちひしがれたよ。もちろん、それは僕だけじゃなかった。あの時、誰もが悲しんだ。彼女ともっと共にいたいと願った。そして……その願いが、彼女を都市伝説にしてしまった」
都市伝説。
橋田さんも、自分でそう言ってた。
だから、知ってた。
「僕は本当は、もう死んでるはずだったんだ。あの時、担任だった棚田先生がいなかったら。とっくの昔に、あっち側にいたはずだ」
「……あい、」
「でも僕は助かってしまった。……だからせめて、せめてもの償いをしようと決めた」
話しながら、いつもの道からそれて山を登っていく。
カラカラと、自転車の音がする。
ざわざわと、木々が揺れる音がする。
しばらくすると、開けたところに出た。
少し離れたところに、古い建物があった。
「だから、」
合田さんは、ふ、と笑った。
*
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西谷彩香(プロフ) - せみさん» コメントありがとうございます!日向のあの真っ直ぐな感じを活かしてどう作るかを考えた時に偶然登場してた(特に深い意味もないし名前もホントはなかった)合田おじさんが大活躍でしたあっぱれ。そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございました! (2018年10月6日 12時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
せみ - 感動しました!!日向は日向のままでいるとこんな作品が出来るのか、、、!とびっくりしました笑 本当に面白かったです!お疲れさまでした!これからも頑張ってください。 (2018年10月6日 10時) (レス) id: ac69ea21d6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2018年8月15日 8時