＊ ページ22
*
不安だ心配だと騒ぎ立てる男士を放って出て行くと帰ってきた時が怖いな、と漠然とした恐怖をぼんやりと感じながら、ぎゃあぎゃあ騒ぐ彼らに後ろ髪引かれる思いでやっと本丸を出て政府に来たはいいけど。
「……どこ、ここ？」
私は確かに政府に赴いたはず。
いや赴いた。担当の役人がなんかいつも以上にへこへこしてさぁさぁと背中を押されて、最終的には押し込むかの如く後ろからドンッと押され、変な時空ワープっぽい黒い穴に吸い込まれたような気がして……今に至る、と。
あの役人、いくらなんでも雑すぎやしないだろうか。減俸でも食らえばいいのに。
そんな文句も、ただの独り言になりそうだったから何とか抑えて、とりあえずここがどこかを知らないといけないなぁとだけ考えていた。
私が立っていたのは、見覚えのないどこかの本丸のような場所の、庭。
小さな池とその周りには可憐な花々が咲いていた。ここの景趣、今春か。
そう思ってふらふらと池の辺まで寄って、花を眺めていると、バタバタと騒がしい足音がどんどんと近づいてきた。
次の瞬間、本丸らしき建物の方から懐かしい声が聞こえた。
「いたんすね……本当に俺以外にも、ここに連れてこられた審神者が……って、細雪さんじゃないすか!?」
「……え、天葉くん？」
そう、私の本丸に研修に来た彼、天葉くん。
「久しぶりっすね、元気そうで何よりっす」
「そっちこそ。……あ、小夜、元気？」
「元気っすよ、偶に寂しそうにしてたっすけど。……俺は大丈夫だから帰って良いって何度も言ってるんすけど、まだここにいるって聞かないんすよ」
「それは……」
「俺の小夜左文字もいるし、本丸も結構順調なんすよ？この前だって遠征成功させて、演練でもやっと格上の相手に勝てたんすよ、戦法勝ちっすけど」
「成長してるね……天葉くん、うちでの研修必要だったかな」
「細雪さんに教えられたこと、すげぇ役に立ってるんすから、俺の師匠として堂々と胸張ってほしいっすね？」
へら、と笑った彼がそう言うから、私は頬をかいて視線を下げ気味に答えた。
「師匠と言うか、友人って感じなんだけどな」
「はは……友人、すか」
……少しだけ上向いてみれば、何で天葉くんはがっかりしてるんだ。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：西谷彩香 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時：2018年7月10日 20時
