とある冬の夜の事 ページ2
*
冷たい廊下を素足で進む。
庭に面した廊下に出る。
普段なら、三条の三日月さんや、古備前の鶯丸さんが縁側でお茶を飲んでいるはずの場所。
でも、いない。
当然だ。
じっとその場所を見つめてから、庭に降りる。
人間と言うのは、つくづく不便だ。
僕は刀なのに、足の裏が雪を冷たいと感じ、もう嫌だと悲鳴をあげている。
それでもそれを無視して、冷たい月明かりに照らされた庭を歩き回る。
唐突だけど、僕はこの本丸の初鍛刀。
初期刀の山姥切さんの次に古参だ。
そんなずっと昔から、僕は、僕達は、主と一緒に畑を耕し、馬を育て、厨でご飯を作り、出陣し、遠征し、演練に赴き、練度を上げて。
池田屋の歴史修正主義者を倒した後に、更なる強さを求めて修行にも行った。
全ては主のために。
＊
初めて顕現されて、主と顔を合わせた時。
僕は、主に「復讐を望むのか」と聞いた。
主は笑って、「そんなもの望んでないよ」と言った。
主は、誰かを恨むことも、妬むこともなかった。
何かあっても、誰も悪くないって笑って。
そんな主をずっと見て来た。僕はいつしか、主が無理をして笑っているのが分かるようになった。
無理して笑う主に、少しでも気の休める場所が必要だと思った。だから主に言った、無理はしないでって。
僕に見抜かれて、主は力が抜けたみたいになって。それからは、僕を頼ってくれるようになった。
短刀で、幼子の姿の僕に甘えるのは、主も抵抗があったみたいだけど、気付けば主はそんなもの気にしなくなったし、気付けば僕は固定近侍になっていた。
嬉しかった。
復讐しか知らない僕の心を、主が満たしてくれてるみたいで。
復讐しか知らない僕が、誰かの力になれた気がして。
ざく、ざくと響く足音。
振り返れば、足跡が月に照らされて点々と僕まで繋がっていた。
*
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西谷彩香(プロフ) - 月夜桜さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけて光栄です。もしもの話ではありますが、例えばそんな形の最期なら彼らも報われるのかな、と思い執筆に至りました。ありがとうございました。 (2018年5月25日 19時) (
レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
月夜桜(プロフ) - こんなに泣ける小説は……中々無いです……(訳:もっと評価されても良い筈だ) (2018年5月25日 19時) (レス) id: 02630f3ef1 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ちーかまさん» はい。アンストに関しては人の向き不向きもあるので"絶対するな！"と強制するものでは決してないですが、例え架空のゲームのキャラでも、画面の向こうでは自分と向き合う1人の人(神)として大切にすることが大切だと思っています。 (2017年8月20日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ちーかま(プロフ) - 解釈の仕方、凄く好きです。寿命は仕方ないとして、アンストしない様にしたいですね。これからも作品、楽しみにしてます。頑張ってください。 (2017年8月20日 23時) (レス) id: a839271da9 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ちーかまさん» コメントありがとうございます！今回の初期刀&初鍛刀は私自身のデータのものでした。寿命だとか、私たちの場合はアンストだとか、そうして主を失った刀剣男士のその後は、せめて少しは報われていてほしいと思いながら書いていました。ありがとうございました。 (2017年8月20日 23時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：西谷彩香 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時：2017年8月14日 17時
