国定図書館の暗殺者 (ページ36)

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正論の時間ページ36

注意)話が洒落にならない程度に飛びました。怒らないで下さい。

　「ふっっざけるな」

　普段の司書ならば絶対に出さない様な声が司書室に響いた。
　本日の助手である高村光太郎と偶々手伝いに来ていた菊池寛、宮沢賢治は揃って書類を落としかけた。恐る恐る司書の方を見ると、端末画面を物凄い形相で睨み付けていた。しばらくの間そうしていた司書は

　「…よしっ。先生方、行ってきます」

　そう云ってスタスタと司書室の扉を開けて出て行ってしまった。

　「えっ……とぉ」
　「おい、何が起きた」
　「司書さん？」

　何奴も此奴も、巫山戯やがって。
　【特務司書】と書かれたコートをヒラリと翻し、エントランスホールへと出向く。何時もとは明らかに違う司書の様子におずおずと様子を覗う者ばかり。

　「司書。何をしている」
　
　厳しい視線で司書の動きを止めさせつつ、一人の文豪が出てきた。

　「おや、森林太郎医師。お早うございます」
　「もう、昼だが……。さて貴殿は今、何処へ向かおうとなさっている」
　「……きまっています」

　司書も負けじと森の顔を睨み返した。

　「学校(・・)です」
　「ほう」

　森の表情が少しだけ変化した。
　Aには分かった。呆れられている、と。高校生ながらに特務司書として国定図書館の職員になったが矢張りこの様な者か、と。それは錬金術師として各地に赴けば幾らでも浴びることが出来る視線だった。

　「貴殿は誰として赴くつもりか。特務司書か」

　森の視線がコートに移動した。

　「それとも……Aとしてか」

　私は其の瞳に怯まない様に唇をかみ締めた。
　何と云われようと、答えは決まっている。

　「どちらも……です」

　エントランスで成り行きを見ている文豪達にも伝える様に声を張り上げる。

　「どちらもです！政府としての、下っ端ですけどっ。
　

　権限が使えるならば！
　

　それで恩師の命を延ばすことが出来るのなら！
　

　私は……そうします。
　きっと、コイズミヤクモさんもそっちが良いと云うはずです！
　私をクビにしたいならお好きにどうぞ！」

　Aはそう叫ぶと大きく音を立てて扉を閉めて出て行った。
　其の様子を二階から見ていた小泉八雲がポツリ。

　「司書殿……。ワタシもお手伝い致しますよ。待っていて下さいね。

　思い出させて見せます。

　ワタシの愛しい生徒」

　江戸川乱歩はため息をついて、【本】が置かれている部屋へと歩き始めた。