国定図書館の暗殺者 (ページ25)

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誕生日の時間　（如月廿日＋大回収）ページ25

「おや」
　「あなや！」
　「おや」

　司書であるAに云われ、椚が丘学園の美術室へ来ていた三人の文豪は同じような意味合いの言葉を、同時に発した。
　何故なら、普段は温厚な宮沢・高村。
　良くは知らないが、積極的に怒るような性格ではない菅谷。
　知らない、全く知らない生徒。
　が、睨み合っていたためである。

　「あ、乱歩さん」
　「乱歩？」

　宮沢が乱歩に向かって発した言葉に、眉間にしわを寄せ、青年が此方を向いた。
　なかなか、綺麗な顔立ちである。

　「君たちは一体誰だ。僕は椚が丘学園生徒会長の浅野だ。浅野学修」
　「私は……」

　E組の生徒以外に本名(この場合は筆名)で自己紹介をするな、と厳命されている二人は口ごもった。すると、三人のうちの一人・夢野久作がサッと前へ歩みでた。

　「それはそれは。失礼しました。僕は杉山太郎と云います」

　夢野は次に八雲をさして

　「此方は平井泰道。私と一緒に図書館で働いています」
　「同僚デース」

　そして乱歩を差して

　「そして此方は…江川正宗さんです。彼も私の同僚です」

　と云って、下がった。夢野の説明で納得がいったのか、浅野は頷いた。

　「そうか。それは失礼しました。僕は仕事が在るのでこれで。施錠の時間が迫っているので、早く帰って下さい」

　さて、大きなキャンバスを片手に図書館の五人と菅谷は椚が丘国定図書館の食堂へと急いだ。

　一方、吉川英治と森鴎外は何故か『足止め班』として図書館の庭で、買い物から帰ってきた志賀直哉達を引き留めていた。

　「まぁまぁ、志賀殿。少し、我々の話を聞いていけ」
　「しっかしよぉ。寒くねぇか？」

　志賀の云うとおりだ。日はもう、とっぷりと沈んでしまっている。もう限界だ、合図は未だかと吉川が思ったその時

　「しっがぁぁっ！！」

　武者小路実篤がぴょんぴょんしながら図書館から掛け出てきた。

　「むしゃ？」
　(良かった)

　「今日は志賀の誕生日会だよ。さぁ、行くよ」

　武者小路実篤は問答無用、と志賀の腕を引っ張って図書館へ入っていく。

　「よし、俺たちも行くぞ。龍」
　「解った。寛」
　「あぁっ。芥川先生！俺も」
　「吉川殿、行くか」
　「あぁ」

　さてさて、宴の始まりだ。
　程なくして、食堂からは楽しげな笑い声や何故か喧嘩の声、誰かと誰かの感慨深い声などが響き始めた。何時もよりも賑やかな夕食が始まった。

　「賑やかですね」
　「お司書はんもそう思っとった？」
　