国定図書館の暗殺者 (ページ24)

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誕生日の時間　（如月廿日＋大回収）ページ24

「おっ！ムシャ！やっと見付けたぜ」

　武者小路実篤は、図書館(分館)のエントランスホールで志賀直哉と鉢合わせした。志賀は暇だったのか、片手に『蟹工船』を持っていた。

　「志賀！僕も探してたんだ。どうかした」
　「いや、今日は一日休みでな。休みなんて久しぶりだし、する事ねぇんだよ。遊び、行かねぇか」
　「良いよ！あっ、僕、司書さんから頼まれてたことがあったんだよ……。ご免志賀」

　武者がしおらしく、謝ると、志賀はしゃーねぇ－な、と再び相手を探しに何処かへ行ってしまった。志賀が視界から消えるのを確認すると、武者は大きく息を吐いた。次の瞬間に、きっ、と顔を上げると、志賀とは反対の方向へと走り出した。

　さて、武者が全速力で直行したのは芥川の部屋だった。

　「芥川くんっ！頼み事がぁぁ？！」

　勢いよく扉を開けると、大量の図書館の池に生息している生物の縫いぐるみが雪崩を起こして、降り注いできた。よく見ると、タグに【製作・徳田】と書かれている。

　「わ！武者さん？寛、寛、大変だ」
　「んー。如何した！龍！」

　芥川の声を聞きつけて、隣の部屋から出てきた菊池寛は目の前の光景を見て絶句した。

　「おいおい、龍。何だこりゃ」
　「寛、助けて」

　取り敢えず、廊下に氾濫した縫いぐるみを全て芥川の部屋の中へと入れた。武者と菊池も一緒に入った。部屋の中は、無頼派の某堕落者の部屋…とまではいかないが綺麗とは云えなかった。

　「後で片付けるからな、龍」
　「ん」

　菊池と芥川は武者へと向き直った。

　「それで、武者さん。何かご用ですか」
　「あっ！そうだった。菊池君と芥川君にお願いがあるんだ」

　武者は胸の前で手を合わせると云った。

　「志賀と一緒に遊びに行ってきて？」
　「え」
　「で、でも、今日は志賀さんのお誕生日会で、俺たちも手伝おうと……」

　予想外の言葉にアタフタし始める二人に、武者はもう一度云った。

　「此も準備のお手伝いだよ。志賀と遊びに行ってきて、今、志賀。相手を探してるんだ」

　二人は顔を見合わせた。しばしの沈黙。

　「良いですよ」
　「志賀さんとお出かけ！勿論です」
　「有り難う、二人とも」

　かくして、志賀直哉は芥川龍之介と菊池寛と太宰治(芥川がお出かけすると聞いて)と街へ繰り出していった。

　その頃、椚が丘学園の美術室には高村・宮沢と菅谷、それから生徒会長である浅野学秀が奸悪なムードの中絵を描いていた。一体何が。
　