国定図書館の暗殺者 (ページ21)

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誕生日の時間　（如月廿日＋大回収）ページ21

我慢できません、書いちゃいます。

　「ハーン、ハハーン」
　
清々しい天気だ、自室の簡易キッチンから窓の外をちらりと見た志賀直哉は思った。キッチンには甘い匂いが立ちこめている。
　大きくのびをすると、シュルリとエプロンを外す。畳んでそれを傍らにある丸椅子の上に置いた。オーブンの中を確認し、キッチンから離れた処に在る机の上に先ほど入れた珈琲を置いた。一瞬で先ほどの甘い匂いを押しだし、珈琲の良い香りが部屋を満たし始める。
　
　「おっ…そうか。今日は俺の誕生日でもあったな」

　珈琲を飲みつつカレンダーに目をやると、『如月二十日石川啄木・しが』と書かれている。｛しが｝の字が後からペンで大きく書き足されている。
　
　「フッ」

　志賀直哉は小さな笑みを浮かべた。おおかた、自分の友人である武者小路実篤が書き足したのだろう。
　志賀直哉には今日一日休暇が与えられていた。一体何故だろうと、少し引っかかっていたのだが謎が解けた。誕生日プレゼントって訳か、志賀直哉は珈琲カップを机の上に置いた。簡易キッチンに置かれたオーヴンは、もう少しで焼きあがることを示している。

　「何すっかなーぁぁ」

　志賀直哉の呟きを聞く者は表向きには誰も居なかった。

　さて、此処は志賀直哉の部屋の天井裏である。ごそごそ、ごそごそ。何人かの衣擦れの音が聞こえる。一人は何処からか取り出した端末の電源を入れた。

カニつきました
むしゃむしゃ了解です!志賀は?
カニ一人で…準備されてます。石川サンの分のケーキですね
むしゃむしゃむむ!良いこと思いついた!
カニ何ですか?
むしゃむしゃ司書室に行ってくるね。有島と小林君はそこに居てね

　「だそうです。有島サン」
　「ん……」

　天井裏の一人は端末の電源を落とし、座り直した。もう一人は再び眠りに入った。

　一方、むしゃむしゃこと武者小路実篤は司書室に居た。

　「買おう！」
　「はい？」

　司書室の主である、Aは困惑した顔で聞き返した。急に扉を壊す勢いでやって来られて、「買おう」と云われても謎すぎる、とAは思った。

　「プレゼント！志賀の」
　「あ、あぁ。志賀先生のですね」
　「そうだよ、買おうよ！図書館のお金で！」

　武者小路実篤からそう云われて、Aの顔が急に青くなった。蒼白、と云ってもいい顔である。Aは小さな声量で呟いた。

　