99 山の獅子(4) ページ6
どうやらオビはAが目を覚ますまでそばにいたらしい。
今、彼からただようご飯とお酒の匂い。起きた時はしなかったのだからAの仮説は合っているはずだ。
だけどオビはただ笑ってAの髪をくしゃりと撫でただけだった。
なんだか瞼が重くなる。
優しい手付きのせいか、お酒の匂いのせいなのか。
「眠い？」
ふるふると首を振って否定したが納得はしてもらえなかった。
結局寝台に寝転がされる。白雪の時と同じだ。
「今度こそ充分寝たんだけどなあ」
「身体も心も思ったより疲れてる。ゆっくり休みな」
トン、トンと優しく肩を叩かれる。
途端に揺らぐ視界にオビが映る。
柔らかく笑っている気がした。
「そう言えば主から聞いたんだけど、A嬢って基本的に人前で眠れないんだね」
「ゼン、よく知ってるねえ。
大丈夫な、ひともいるよ。イザナ殿下、ゼン、ミツヒデさん、ききさん、しらゆき。……あと、は」
おび。
沈むように意識が遠のいて行く。
最後の言葉は口に出せたかもわからなかった。
＊
彼女の言葉は聞き取れなかった。
だけど、目の前の姿が何よりの答えだ。
随分と穏やかな寝顔をしている。
そう見えるのはオビ自身の心が落ち着いているからなのだろうか。
本当はもう立ち去ろうと思っていた。
大切な、____攫われた時に憎悪と苛立ちでどうにかなりそうな程大切だと思った人を護れなかった自分が許せなかったからだ。
人に深入りしてこなかった自分にはやはり一度きりの縁がお似合いだ。
そう思ったのに。
(あんな言葉聞いちゃったらね)
子どものように泣いた彼女がようやく見せた本音。
嬉しい、と1番に思った時点でオビの負けだった。
『もし先に出会っていたら私も一員だったかもしれませんね』
聞こえてしまった彼女の話。
Aが山の獅子だったら。あの城で出会っていなかったら。
こうやって考え込むこともなかったのだろう。
だが、未来を共にする存在がいるというのも案外悪くない。
口元を緩めたオビはAの頬を撫でた。
宴の声は聞こえなくなっていた。
仁王立ちした王子様に迎えられる前に戻らなくては。
名残惜しい気持ちを打ち消すように、灯りを落とす。
しんとした暗闇の中聞こえるのは小さな寝息だけ。
顔を寄せても起きる様子のない眠り姫に苦笑が漏れる。
「おやすみ」
そっと口づけた額は柔らかかった。
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七草(プロフ) - 紗夜さん» お返事くださっていたのにすみません！！全く気付いておりませんでした！己の睡眠欲に負けないよう頑張ります！ありがとうございます！！！ (2021年8月16日 10時) (
レス) id: 36eff566e0 (このIDを非表示/違反報告)
紗夜(プロフ) - 続きを…続きをください！ (2021年6月26日 4時) (レス) id: 5c2d649dea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：七草 | 作成日時：2021年5月4日 20時
