124 帰城2 ページ31
ふと脳裏に蘇ったのは、出会ったあの日。
何もかも色褪せた灰色の世界で唯一輝いていた。
本当に神様だと思ったのだ。
人としての生を授けてくれて、充分すぎる程の幸せをもらった。だから飽きて捨てられないよう有用性を示そうと足掻いていた。
今回の旅までは。
「A・カラァ。お前に王子付従者を再任命する。
次はないと思え」
チャリ、と金属が擦れる音とともにAの手に重みが乗っかる。
光を反射して煌めく懐かしいそれに鼻の奥がツンと痛む。
「はい。
私はもうどこにいても、何があってもこの国の従者であることを諦めません。必要ならこの身分証を使ってでも殿下のおそばに戻って参ります。
まだ鶴にもなっておりませんので」
「そうだったな」
伝わるかどうか不安だったが、覚えてくれていたのだろう。唐突な言葉選びに怪訝がる様子もなく淡い微笑を浮かべた。
「しばらく休暇を与える。ゆっくり休め」
「はい。ではこれにて失礼いたします」
「まあ待て。そんなに急がなくてもいいだろう」
立ち上がって頭を下げたAを呼び止めたのはザクラだった。
背を向けたイザナと入れ違いにこちらへ来た彼にワシワシと髪を撫で回される。
「おかえり。成長したなあ」
しみじみと呟いた言葉には喜びが滲んでいた。屈託のない笑顔につられて、へにゃりと頬が緩む。
「王子に粗相はしなかっただろうな」
いつの間にいたのだろう。
すぐそばで聞こえたハルカの声に、条件反射のように背筋を正す。
「はい！……多分」
言い切れないのが残念である。
今にも苦言を呈しそうな渋面に「ですが」と慌てて付け足す。
「ラジ王子にダンスは褒められました。『指南役の腕が良いのだろう』とのことです。ありがとうございました」
「……ふん」
いかにも興味のないような返事だ。
だが一瞬。いや瞬きにも満たない間だったが見せた表情は意外なほど優しいものだった。
なるほど、この表情でバイオリンを弾いたら女性を落とせそうだ。
「何か余計なことを考えているな」
「いいえ何も。お邪魔をして申し訳ありませんでした！失礼致します！」
ザクラの笑い声を背に浴びながら急いで部屋を出る。
……休暇明け、仕事増えるかな。
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七草(プロフ) - 紗夜さん» お返事くださっていたのにすみません！！全く気付いておりませんでした！己の睡眠欲に負けないよう頑張ります！ありがとうございます！！！ (2021年8月16日 10時) (
レス) id: 36eff566e0 (このIDを非表示/違反報告)
紗夜(プロフ) - 続きを…続きをください！ (2021年6月26日 4時) (レス) id: 5c2d649dea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：七草 | 作成日時：2021年5月4日 20時
