108 夜会3 ページ15
ラジに手を引かれ右へ、左へ。
昔から叩き込まれていたおかげか、思ったほど緊張はせず流れるように身体は動く。
「初めてと聞いていたが随分と慣れているではないか」
思わずと言ったように呟いた彼に笑いかける。
「お褒め頂きありがとうございます。
指南役のおかげですかね。帰ったら伝えておきます」
いかにも無縁そうな雰囲気なのにハルカ侯爵は芸術面に通じているのだ。
特にバイオリンの腕は随一だ。初めて聞いた時は意外すぎて本人が弾いていると内心信じられなかった。
まあすぐに見咎められ、何か言いたいことがあるようだな、と仕事が増えたのだが。
そんなしかめ面の侯爵も他国の王子に褒められたと聞けば流石に表情も緩むだろう。
いやでも笑った顔なんて見たことあったかな。……数回くらいはあった、気がする。多分。
「何を考え込んでいる?」
「あ、すみません」
手を引かれ、そぞろになっていた気持ちが引き戻される。
もうダンスも終盤だ。
さよならする前に伝えることがある。
「ありがとうございました。少し、…そこそこありましたが、今この瞬間を迎えられて良かったです」
驚きと困惑を混ぜたような複雑な表情がAを見下ろす。何度か目を瞬かせた後はにかむような笑顔に変わった。
「…良い思い出になっただろうか」
くるり。
最後のターンと共に演奏が小さくなる。
目を合わせようと意識せずとも、当たり前のようにラジもAを見ていた。
しんとした静けさの中、視線が絡む。
にこりと笑う。込めた思いは伝わるだろうか。
「ええ、とても」
__繋いだ手が離れた。
147人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
七草(プロフ) - 紗夜さん» お返事くださっていたのにすみません!!全く気付いておりませんでした!己の睡眠欲に負けないよう頑張ります!ありがとうございます!!! (2021年8月16日 10時) (レス) id: 36eff566e0 (このIDを非表示/違反報告)
紗夜(プロフ) - 続きを…続きをください! (2021年6月26日 4時) (レス) id: 5c2d649dea (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:七草 | 作成日時:2021年5月4日 20時