【記憶が消えても】福本大晴 ページ4
※実際にこんなことはあるかどうか微妙です
「記憶、が…」
その報告はあまりに残酷だった。
私がもっている病気は不治だと言われていたけど、最近手術法が見つかったらしい。
その手術を受けたら、高い確率で私はもおっと長く生きられるようになる。
でも、その代償として私から“記憶”が失われる。
その失われる記憶というのは人によって様々らしく、数分の人もいれば、何十年もの人もいる。
一番多いのは、大切な人が思い出せないことらしい。
大切な人と聞いて、私は一人しか思い浮かばなかった。
そう、3年ほど付き合っている彼氏の福本大晴くんだ。
彼とは大学で知り合って、卒業した今もなお関係は続いている。
私は彼のことが、大好きだった。
そんな彼が、私の中から、するりと抜け落ちてしまうとしたら、、、。
考えただけでも、酷く恐ろしかった。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
春の陽気がとても心地よい室内。
大晴とふたり、向かい合って喋っていた。
大晴「手術法、見つかったん！？」
彼はいままでみたこともないような晴れやかな笑顔でよかったな、と言ってくれた。
けれどその後、不安そうな顔をする私に、「どうしたん」とたずねた。
私は小さく一息吸って話し始める。
「実はね、」
手術の副作用のことを話す。
私は貴方のことを忘れたら迷惑をかけてしまうから迷っているという事も話した。
すると、さっきの笑顔は嘘だったのかと思うほど真剣な顔で、彼は私の目を見つめた。
大晴「迷惑なんて思ったことない
Aと一緒にいられてほんま幸せなんよ、俺。」
その言葉が、嘘みたいに嬉しくて、私は泣き出した。
すると彼は、子供をあやすように私を抱きしめて、背中を一定のリズムでとんとんと叩いた。
大晴「Aのこと好きやから、
記憶がなくなったAだとしても
ずっと一緒におりたいねん」
上から優しい声が降ってくる。
泣きすぎてぐしゃぐしゃの顔で私は言った。
「記憶がなくなっても、私ぜったいに、大晴のこと、好きになるから、っ
忘れてても、ぜったいに、大晴のとなりに、、、っ、となりに…」
嗚咽のせいで、うまく喋れない私のことを、大晴は、いつもより強く抱きしめた。
どんな顔しているかなんて、私にはわからないけれど、私の肩あたりが少しだけ湿ったから、泣いているのだろう。
それがなんとも痛くて切なくて、私は応えるように彼をぎゅっと抱きしめ返した。
記憶が消えても、きっと…。
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作者名：くも | 作成日時：2023年9月18日 0時
