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私への触れ方は何も変わっちゃいない。壊れ物を扱うように繊細に触る。悟のように乱暴じゃなかったし、傑くんの優しい性格を体現しているようで、私はとても好きだった。
「保護した子どもは美々子と菜々子という。きっとAとも仲良くなれる」
この後に続く言葉を予想できる程、私は大人じゃなかった。けれど本能的に聞きたくないと思った。
「A、私と共に行こう。こんなクソみたいな所にいる必要は無いんだ。Aはここにいるべきじゃない」
この家から出ていく、その選択があると知ったのはその時だった。五条家という狭い箱庭に閉じ込められ、高専生である5年間だけ青春を謳歌し、そしたらまた五条家に戻って好きでもない男と子を為して。
そんな風に五条家に縛られたまま生涯を終えるのだ。つまらない人生の終止符を五条の家で迎えるか、つまらない人生の終止符を傑くんについて行くことで終わらせるのか。与えられた選択肢は2つ。
突然、視界が歪んで傑くんが見えなくなった。瞬きをしたら流れそうになるそれ。何故か私の中で既に答えが出ていたのだ。
『私は、傑くんに……ついて、いけない』
喉が狭まったように声が出なくて、 辿たどしく詰まりながらもそう伝えた。それ以上は何も言えなかった。言ったら泣いてしまいそうだったから。
「……そうか」
彼は寂しそうに笑って私の髪の毛を1束梳くように撫でる。そしてもう一度頬に手を伸ばし、私という存在を確かめるかのように撫でていた。
彼は私の額と自身の額をくっつけて静かな声で言った。
「さよならだよ、A」
そう言って彼は大雨の中に消えた。大好きだった傑くんはもういない。もう会えない。遠い遠い世界に行ってしまった。永遠に交わらない道を私たちはこれから突き進むのだ。
幼い私でもそれくらいはわかった。力が抜けてその場にへたり込んで、私は久しぶりに声を枯らすほど泣いた。
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あかね(プロフ) - 抹茶さん» ひえ!ありがとうございます!! (2021年4月19日 1時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶 - えっ…………………好きです← (2021年4月17日 22時) (レス) id: 5aab78de35 (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - クロノ@気まぐれ更新さん» ありがとうございます!続編もよろしくお願い致します! (2021年1月27日 0時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
クロノ@気まぐれ更新(プロフ) - 続編おめでとうございます!更新頑張って下さいね…! (2021年1月26日 6時) (レス) id: 81556e3845 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あかね | 作成日時:2021年1月26日 1時