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「謝罪なんて要らない、生きて。死なないで」
伝えたいことは山ほどあるのに出てくるのはAの存命を願う言葉ばかりだった。
「死ぬまでに恋をしてみたかった。好きな人の瞳に映って、『楽しい』って『幸せ』って言える、果てない絵空事を夢見てた。でも絵空事にならなかった。無一郎くんがいてくれたからだよ」
溢れて止まらない僕の涙を拭いながらAは言葉を続けた。
「神様っているんだね」
神様なんているもんか。
神様がAの寿命を決めたなら僕は神様を一生恨んでやる。
「いのち短し 恋せよ乙女
黒髪の色 褪せぬ間に
心のほのお 消えぬ間に
今日はふたたび 来ぬものを」
澄んだ声でAが歌い出した。
なんて綺麗な歌なんだろうと思った。
「歌がうまいなんて聞いてない」
「うまくないよ」
くふくふと笑う彼女を見て、触れたい、という衝動が突き上げた。
ゆっくり顔を近づけて、Aの唇に触れた。
離してもう一度、口付けを落とした。
何度も何度も唇を重ねた。
お互いの存在を確かめ合うように。
消えないで、この温もりも。
Aも。
触れた唇は確かに冷たかった。
でも確かに生きている温もりを感じた。
記憶に刻むようにAとの口付けを繰り返した。
人間の体の中で1番薄いらしい唇の皮越しに、僕の想いが伝わればいい。
どれだけ僕が君のことを好いているか。
僕がどれだけ君との未来を望んでいるか。
ああ、八月がずっと終わらなければいいのに。
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美穂(プロフ) - はじめまして。凄く感動して大号泣させてもらいました。 (2021年1月10日 18時) (レス) id: 180cfbbdac (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - 成瀬凛ーなるせりんーさん» 優しく拭いてくださいね( ;_; ) (2020年6月28日 10時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬凛ーなるせりんー(プロフ) - あれ…勝手に目から涙が…( ;ω;) (2020年6月28日 6時) (レス) id: d90f6781eb (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - 春巻さん» アアアアイロニー……。終着点が絶賛迷子中ですが、近々公開させようかなとおもったり思わなかったり……(おい) (2020年5月28日 18時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
春巻 - あかねさんの作品には毎回泣かされます( ノД`)ォョョ…アイロニー楽しみに待ってます! (2020年5月28日 18時) (レス) id: 224dfaba1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あかね | 作成日時:2019年12月25日 2時