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次の日、Aの病室を開けるとモヤっとした熱気が顔を覆った。
それだけで汗をかいてしまう不快感に顔を顰めるも、僕を目敏く見つけたAの笑顔でどうでもよくなった。
「久しぶり」
「久しぶりだねぇ」
間延びした話し方。
綻ばせた頬。
全てが愛おしくて。
海に連れて行きたかった。
その真っ黒の瞳に、海の碧を写してほしかった。
そんな衝動にかけられ、Aの部屋を後にし胡蝶さんのいる部屋に走った。
「っ胡蝶さん!」
「こらこら、時透くん。屋敷内は走ってはいけませんよ」
「すみません、あの海の行き方教えてください!」
怪訝そうな顔をした胡蝶さん。
「ここは内陸の街ですので、海に行くには列車に乗らないといけません。海は駅からもかなり離れているので結構な距離を歩かなければなりませんよ?」
「分かりました、ありがとうございます」
Aの部屋に走った。
二つ結びの女の子に「霞柱様!走らないでください!」と言われたが聞いてないフリをした。
Aの部屋のドアを勢いよく開ける。
Aのベッドサイドの椅子に腰掛け問うた。
「Aは海に行きたい?」
「うん、行きたかった」
「自分の生きていられる時間が短くなっても行きたい?」
質問の趣旨が違うことが分かったのか、Aは口を噤んだ。
でも、確かに微笑んで言った。
「行きたい」
僕らの最期の逃避行が始まる。
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美穂(プロフ) - はじめまして。凄く感動して大号泣させてもらいました。 (2021年1月10日 18時) (レス) id: 180cfbbdac (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - 成瀬凛ーなるせりんーさん» 優しく拭いてくださいね( ;_; ) (2020年6月28日 10時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬凛ーなるせりんー(プロフ) - あれ…勝手に目から涙が…( ;ω;) (2020年6月28日 6時) (レス) id: d90f6781eb (このIDを非表示/違反報告)
あかね(プロフ) - 春巻さん» アアアアイロニー……。終着点が絶賛迷子中ですが、近々公開させようかなとおもったり思わなかったり……(おい) (2020年5月28日 18時) (レス) id: e8088c70b5 (このIDを非表示/違反報告)
春巻 - あかねさんの作品には毎回泣かされます( ノД`)ォョョ…アイロニー楽しみに待ってます! (2020年5月28日 18時) (レス) id: 224dfaba1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あかね | 作成日時:2019年12月25日 2時