八月がずっと終わらなければいい【時透無一郎】

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「つかぬ事をお聞きしますが、あなたが時透様でよろしいでしょうか」









胡蝶さんが退出して重苦しい雰囲気の中、まず口を開いたのはお兄さんの方だった。









「はい、そうです。先程は生意気言ってすみません」








胡蝶さんに遮られた言葉を続けた。









「Aはセカイが知りたいって言ってました。Aは生き永らえたいんじゃなくて、いろんなものを見て、いろんなことを経験してーーー」

「そんなことも分かってる！！！」









Aのお兄さんが、ここにきて初めて声を荒らげた。
驚いたが、怯んじゃいけない。









僕だってAに生きていてほしい。
願わくば、ずっと隣で。
でもそれが叶わないなら、Aの思うままにさせてあげたいっていうのは。
きっと他人であるが故の我儘だろう。









「分かってる、分かってるんだ……。どれだけあの子がセカイを知りたがっているかということも。あの子の体温が少しずつ下がるたびに、諦めてきた。白無垢姿を見ること、あの子の子どもを見ること。あの子を慈しみ育ててきた両親に変わって、俺が全部見届けようと思ってた。でも……あの子を家に縛れば縛るほど、Aの笑顔は減っていった」









そう言うとお兄さんはある1冊の手帳を取り出した。

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