八月がずっと終わらなければいい【時透無一郎】

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「ご家族の方呼べますか」









呼べ、と言わんばかりの威圧だった。









「……鴉に頼みます」









本当は知らせたくなかった。
だってお兄さんはAを連れて帰ってしまうから。
僕らの逃避行が終わってしまうから。









ねえA？









どうしちゃったの？









まだ僕ら海を見れてないよ。









あんなに嬉嬉として海のことを教えてくれたのは君じゃんか。









どうして今にも死にそうな顔で眠ってるの？









固くつぶられた瞳は開きそうにない。









笑ってよ、もう一度。









僕の贈った簪と同じ形の目で笑ってよ。









僕、君の笑顔が好きなんだよ。









君が、好きなんだよ。









初めて誰かを覚えていたいって思ったんだ。









初めてだよ？









鴉に文を括りつけて見送ってから、一刻後。
Aのお兄さんが蝶屋敷に駆け込んできた。









「八代です！八代Aの兄です！」








病室まで聞こえるほどの大声。
Aのお兄さんは穏やかで微風のような印象だった。
ずっと心配したんだろうな、と思った。









「こちらです」









胡蝶さんに案内されて病室に入ってきたAのお兄さんは、横たわったAを見た瞬間涙を一筋零した。









そして、僕の方を見ずに言った。








「少し、お時間よろしいですか？鬼狩り様」

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