アイロニー【伊黒小芭内】

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いつも通りAと「おはよう」を言い合って、鏑丸と戯れるAを見ながら、普段は働かない表情筋が緩んでいるのを自覚する、そんな日だった。









最近の鬼の出没数はめっきり減り、任務に出ることも少なくなったのでいつも通り今夜も「おやすみ」と言って布団に入れるものだと思っていた。









「緊急招集ーーーッ！！緊急招集ーーーッ！！産屋敷邸襲撃ッ…産屋敷邸襲撃ィ！！」









こんな風にけたたましく鳴く鴉さえ来なければ。心配そうに眉を下げるAの艶やかな髪を一つ撫ぜて微笑む。









「大丈夫だ、必ず帰ってくる。心配なら蝶屋敷の娘たちと一緒に待っていてくれ」

「気をつけてね」









未だ不安げな顔を隠そうともしない彼女に後ろ髪を引かれつつも産屋敷邸に向かった。一刻も早く向かわなければ、お館様の命が危ない。









走って漸く産屋敷邸が見えて、間に合ったと思った瞬間、目の前で大きな爆発音が轟き、炎が上がった。









お館様がされた事の全貌を理解した刹那、大切すぎる人を失くした、得も言われぬ喪失感に覆われた。









だけど俺たちには果たさなければならない責務がある。悲鳴嶼さんの声で、拘束されたあの男が鬼舞辻無惨だと知った。目の前に全ての仇がある。









斬りかかった瞬間、足場がなかったかのようになり落下感覚が俺たちを襲った。

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