その手を

待ち人 ページ20

「そこに代入」

スタジオの隅。

「それは剰余の定理で」

「その場合は微分して」


聞いたことないワードが飛び交う。

阿部くんがJrに数学を教えてる。

定期テストなんて懐かしい、
なんて微笑ましく見てるわけじゃない。

「この辺分かったなら、大丈夫だよ、あとは演習！」

終わったかな？

ありがとーございました！って。
スタジオから帰っていく。

バタンと扉が閉まってから。

「お疲れ様」

声をかけたら。

「あ、目黒！いたの？」

だってさ。ホントに好きなことしてると他に目がいかないんだから。心配。

「ずっといたよ」

「全然気づかなかった」

「２時間もやってたよ」

「え！？ホントだ！１時間って約束だったのに、つい、帰り道あの子たち、平気かな…」

慌てて立ち上がって、廊下を覗く。

「大丈夫でしょ、もう高校生だし？」

「明日学校なのに、俺ってやっぱり、ダメだね…」

しゅんとして、落とした肩に手を回す。

「それが阿部くんのいいトコでもあるし」

「…悪いトコでもあるんだろ、どーせ」

上目遣いで睨まないでよ。

可愛過ぎて肩を引き寄せてこめかみにキスをした。

「ちょっと、誰か来たら…」

周りを気にする。

「もうとっくに帰ったよ？」

って、今度は唇にキスをする。

「んう」

さっきまで、難しい言葉ばかりだった阿部くんの唇から。

「んん、め、ぐろ、息させて？」

かわいいお願いは聞かなきゃね。

目尻、耳元、首筋、指先…

唇以外にキスをする。

「やっ、待って、落ち着いて」

「俺はずっと落ち着いてる」

勉強中は邪魔をしないとか。
皆がいなくなったらまず阿部くんのどこを触ろうかなとか。

「ずーっと、冷静に考えてるよ？」


阿部くんの唇がへの字になった。

「目黒って、ホントに」

「偉いでしょ？」

「超バカ‥」

言いながら阿部くんの両手が、俺の頬を優しく包んで、温かい唇が重なった。

「‥なんて、思ってないよ」

待っててくれてありがと
って、頬を寄せる。

耳元で囁かれたらヤバいでしょ。

「待ってたご褒美、頂戴」

ぎゅうって抱きしめたら。




「何が欲しいの？」

「帰り道で教えるね」

もちろん決まってるんだけどって、握った阿部くんの指先にキスをする。

「ふぅん‥あ、でももう、お店閉まってるから、明日でいい？」

なんて、
言うのは想定外。

天然もホドホドに、って思いながらも。

瞬きする綺麗なアーモンド型の瞳から、
ホントに目が離せなくて。

困るほど。

大好き。

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