その手を

気づいてくれたら ページ2

「おはよ」


いいながら阿部くんが俺を追い抜いた。


すれ違い様に。

「おはよ！」

後ろから挨拶するけど振り返らない。

昨日の今日、少し反応が恐くもあり。



楽屋にはまだ、俺と阿部くんだけだ。

撮影が順番だから、皆はもう少し後だな。


「阿部ちゃ…」


「あー、そうだ！なんかアンケート、書くんだった！目黒、もう書いた？」


いつもの笑顔で俺に聞く。

…なかったことにするつもり？


「あ、まだ、どれだっけ？」


「昨日渡されたやつ…、確かこの辺り」


もう書いて、置いてあるメンバーもいる。

「これこれ、理想の秋のデート…」


みるみる阿部くんの顔が赤くなる。

これは完全に俺を意識してる、よね？


「紅葉かな！早く書いちゃお」


なんて独り言？

俺に背を向けて、話しかけないでオーラなんか出して、一生懸命書いてる。

俺もアンケートを手にとってみた。


【理想の秋のデートプラン】

公園、映画、トレッキング、サイクリング…


どれもピンとこないな。


そーだなぁ。


「俺、デートで行くのはどこでもいいなぁ」


阿部くんの背中に話しかける。


「好きな子と一緒なら、どこでも楽しいじゃん？その辺歩いてたって、コーヒー飲んでたってさ」

「そーだね」


こちらに背を向けたまま。

「でもさ、不意に仕事場で２人きりになったりしたら、本当にドキドキするよね」


「…」


あ、無視した。



「阿部ちゃんはさ、どんなシチュエーションがいいの？」



聞いておいてドキドキする。


「…俺は…、完璧に計画して行きたい。サプライズもいいけど、成り行きでうまくいかないのが嫌だから」




めちゃくちゃ阿部くんらしい。


「例えば夜景の綺麗なレストラン、サプライズで用意したのに、好きな子がラフな格好だったら申し訳ないじゃん？」


好きな子。

阿部くんの口から発せられた言葉が、思った以上に俺の胸を突く。


「俺はラフな格好だって、予約したレストラン、行っちゃうな」


「ははっ！目黒くらいスタイル良かったら、ドレスコードもぼやけるかもね」


「せっかく阿部くんがセッティングしてくれたのを無駄になんかしないよ？」


真っ直ぐ瞳を見つめる。


「…そういうジョーダンはやめて？」


えへへって笑うから。





「冗談にしないでよ？」

ちょっとムッとしてみせる。

「結構、ドキドキしながら言ってるってことわかって欲しい」

真っ赤になって固まっちゃった。

少しずつ、距離を詰めるから。
覚悟してよね。

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