仮眠室の住人５ (ページ10)

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side ; 渡海

キッチンのほうへ歩いて行ったAが懐かしむような表情で「先生のオペに入るときはいつも戦いでした」と、笑う。当時は今よりも泣き虫で打たれ弱かったというのに、彼女は俺の知らないところで色んなものと戦っていたらしい。

ほかの先生たちに白い目で見られたり、根も葉もない噂がひとり歩きをしたり、傷つく言葉を言われたり……。先生に出会ってから自分を取り巻く環境が一気に変わったんです、と彼女が言う。

A「悪魔のペットだって言われてましたから」

「そんなこともあったな」

あの頃、ひとりで耐えていたAは心身ともにボロボロで。こんなことになるなら、って。声をかけなければ……オペに誘わなければ……そう何度も思った。だけど、そんな俺の心配を吹き飛ばすくらい彼女はみるみる立派になっていった。ほかの医者も認めだすくらい、ぐんぐんと。

A「この場所はだれにも奪われたくないから」

「……ん。」

A「だから勉強しないとだめなんです」

今は優秀なナースもたくさんいるんですよ～、とか、実は先生のオペに入ってみたい人って多いんですよ～、とか。まだ見ぬライバルに敵意を向け、自身を成長させようと努力する彼女にはだれも敵わない。ほんっと、勝手に大きくなっちゃってさ。ね？

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