071 痕 ページ1
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病院で迎える朝は決して優雅なものじゃない。PHSが鳴り響いて、わたしたちを強引に夢から引きずり起こす。
渡海「……なに」
ずっと鳴りっぱなしのそれに手を伸ばして、寝起きの掠れた声で彼が答える。先生のPHSが鳴ることなんて滅多にない。いつも世良くんが部屋に駆け込んできて、だるそうにいつまでも動かない先生を説得しているから。
渡海「…うるせー。わーかったから」
お布団の中をもそもぞと動いて、電話を切った先生の後ろから声をかける。わたしの髪に触れて、朝から大きなため息をついた先生は床に落っこちたままの服を手にとった。
「急変ですか」
渡海「そう。ったく、朝からだれよ」
「わたしも行きます」
体を起こそうとすると、先生がとなりに座る。ふとソファーの方を見るとわたしのスクラブが寂しそうに置き去りにされていた。
わたしたちの格好、それは昨夜を思い出させるには十分すぎる。PHSが鳴ったことも、誰も部屋に入ってこないわけも、すべては先生が鍵をかけていたからだと今さら気づく。
渡海「ちょっと行ってくる」
「でも…」
渡海「そんな格好したやつ連れて行かないわ」
朝の呼び出しに不機嫌な先生。昨日は、こっちが恥ずかしさで真っ赤になるくらいの甘い言葉でいっぱいだったのに。それとはまるで正反対の今、簡単に支度をしてあっという間に出て行ってしまった先生。残ったのは、恥ずかしさと寂しさだった。
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作者名：くまこ
| 作成日時：2018年6月29日 21時
