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―――兄の野球チームの試合が行われる日、また熱を出して寝込んでしまった俺は、応援に行けない悔しさと寂しさで泣きながら兄を見送った。
そんな時でも兄に絶対に渡さなきゃと、玄関で出発準備をしていたところへ追いつき、どうにか石を手渡した。
おまじないなんて子どものすること、ただの石なんて荷物にしかならないだろうに、兄は泣いている俺を慰めるように「ありがとう」と笑って、石を受け取った。
熱が上がってぼんやりとしながらも、今頃兄はどうなったかな、チームは勝てるのかなと、石に込めたお願い事を思い出していた。
いっぱい打って、いっぱい皆に褒められたらいいな。
……凄いなぁ、野球が上手で。
……いいなぁ、身体が丈夫で。
……いいなぁ、兄が、羨ましいな。
こんな身体と
取り替えっこ
出来たら
いいのにな。
―――その瞬間、もの凄く嫌な感覚が身体を駆け巡ったのを今でもハッキリと覚えている。
―――夕方、親と一緒に兄が帰って来た。
朝よりは幾分熱が下がっていた俺は、玄関で兄達を迎えようと、首を長くして待っていた。
「A、何だよあの石!」
『……え?』
「試合で全然打てないし、エラーして俺のせいで負けたんだ!」
「リュックの中で石が割れてたんだ!あの石のせいだ!Aのせいだ!」
兄は帰ってくるなり、勢いよく俺にそんな言葉をぶつけ、逃げるように自室に駆け込んで行った。
両親は「監督にエラーしたことをみんなの前で指摘されて気が立ってるんだ」、「本気じゃないから、機嫌が悪いだけだから、許してあげて」と呆然と立ち尽くしたままの俺を宥めてくれたが、そんな言葉は全く俺の耳には入って来なかった。
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作者名:すずめ | 作成日時:2024年3月25日 17時