検索窓
今日:342 hit、昨日:796 hit、合計:35,003 hit

ページ10

―――兄の野球チームの試合が行われる日、また熱を出して寝込んでしまった俺は、応援に行けない悔しさと寂しさで泣きながら兄を見送った。

そんな時でも兄に絶対に渡さなきゃと、玄関で出発準備をしていたところへ追いつき、どうにか石を手渡した。


おまじないなんて子どものすること、ただの石なんて荷物にしかならないだろうに、兄は泣いている俺を慰めるように「ありがとう」と笑って、石を受け取った。




熱が上がってぼんやりとしながらも、今頃兄はどうなったかな、チームは勝てるのかなと、石に込めたお願い事を思い出していた。


いっぱい打って、いっぱい皆に褒められたらいいな。

……凄いなぁ、野球が上手で。
……いいなぁ、身体が丈夫で。


……いいなぁ、兄が、羨ましいな。



こんな身体と

取り替えっこ

出来たら

いいのにな。





―――その瞬間、もの凄く嫌な感覚が身体を駆け巡ったのを今でもハッキリと覚えている。








―――夕方、親と一緒に兄が帰って来た。
朝よりは幾分熱が下がっていた俺は、玄関で兄達を迎えようと、首を長くして待っていた。


「A、何だよあの石!」

『……え?』

「試合で全然打てないし、エラーして俺のせいで負けたんだ!」
「リュックの中で石が割れてたんだ!あの石のせいだ!Aのせいだ!」

兄は帰ってくるなり、勢いよく俺にそんな言葉をぶつけ、逃げるように自室に駆け込んで行った。



両親は「監督にエラーしたことをみんなの前で指摘されて気が立ってるんだ」、「本気じゃないから、機嫌が悪いだけだから、許してあげて」と呆然と立ち尽くしたままの俺を宥めてくれたが、そんな言葉は全く俺の耳には入って来なかった。

・→←おまじない(追憶)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (48 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
188人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:すずめ | 作成日時:2024年3月25日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。