おまじない(追憶) ページ9
―――小さい頃の俺は身体が弱くて、よく熱を出しては、幼稚園を休むことが多かった。
行事も参加できないことが多く、活発で、いつも外を遊び回っている4歳上の兄が羨ましかった。
―――兄は小学校に上がると地元の少年野球チームに入り、3年生になる頃には試合のメンバーに選ばれるようになった。
活発で、明るくて、友達も多くて。
そんな兄は俺の自慢であり、憧れでもあった。
試合のメンバーに選ばれた、ということは幼い俺にとっても何となく凄いことだということは理解できて、まるで自分のことのように喜んだことを覚えている。
―――ようやく熱が下がり、登園再開し始めたある日のこと。
俺が休んでいる間に、子供達の中であるおまじないが流行り出したようだった。
クラスのちょっと世話焼き気質の女の子が、こっそり「Aくんが早く元気になりますようにーって、皆でおまじないしたんだよ」と教えてくれた。
……嬉しかった。
おまじないが効いて元気になれのだと、本気でそう思った。
それと同時に、もし俺もおまじないが出来たら、誰かが幸せになるかもしれない、良いことが起きるかもしれないと思った。
そして、その時頭に浮かんだのは、"兄が試合に沢山出られますように"だった。
その日は他の子の遊びの誘いを断って、夢中でその女の子におまじないのやり方を教えてもらった。
家に帰ってからも、兄にも両親にも内緒で、教わったことを思い出しながら、1人でこっそりおまじないをした。
―――あのね、まぁるい石にお願い事をたくさんするんだよ。
―――手でぎゅっと石を握って、心の中でお願い事をするんだって。
―――お願い事は誰にも教えちゃいけないんだよ?
―――毎日お願い事をたくさんして、おまじないをかけたい人にその石をあげるの。
―――Aくんにもきっとできるよ。
純粋におまじないを信じていた俺は、きっと良いことが起きる、兄が喜んでくれると信じて疑わなかった。
俺の熱が下がったように、幼稚園に行って友達が迎え入れてくれたように、きっと、喜んでくれるはずだった、のに。
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作者名:すずめ | 作成日時:2024年3月25日 17時