謎めいた人 ページ38
(不思議な出来事の合間にある穏やかなひととき)
明日は貴重なオフ日。
まだまだシーズン途中であるため、少しでも休んで疲れを癒やしたいと思う選手は多い。
中川もそうするはずだった……のだが。
「…あ、冷蔵庫空っぽや」
冷蔵庫の中身を思い出してげんなりする。
こうなるとコンビニ寄ることすら面倒くさい。
真っ直ぐ帰れると思っていたから余計に、だ。
先程までは宗と楽しく喋っていたのに、冷蔵庫のせいで気分がぐんぐん急降下していく。
自分の車まで辿り着いたは良いものの、つい大きな溜息をついてしまった。
『…圭太？大丈夫か？』
「！…あ、ミツさん」
『圭太が溜息なんて珍しいな。何かあったのか？』
声のする方へ顔を向けると、密岡が心配そうな顔で此方を向いて立っていた。
どうやらお互いの車は存外近くに停まっていたらしい。
そのことに少しだけ気分が上がりつつ溜息の
『今から家に来るか？飯行くのは疲れるだろ。ちょっとしたもので良いなら作れるし』
「や、あの、ええんすか？」
『…？うん。無理にとは言わないけど』
「あの、じゃあ…お言葉に甘えて」
『りょーかい』
一応遠慮がちに返事をしたものの、思ってもみなかった展開に中川は内心ドキドキである。
またとないチャンス、逃がしてたまるかと思ったが、初めて行く密岡の家。
期待と緊張で中川はすでに訳がわからなくなりそうだった。
2人分の荷物を密岡の車にポンポンと放り込むように乗せ、緩やかに出発する。
自分の家とは逆方向に向かっていく景色に慣れなさを感じながら、中川はそっと運転席の密岡を窺い見た。
運転中の密岡は普段とはまた違った雰囲気で、ついチラチラと見てしまう。
横髪を耳にかける動作も、信号待ちで窓枠に片腕を乗せているところも、全てが様になっていた。
『…あ。』
「っ、どうしたんすか？」
信号待ち。ふいに此方へ視線を寄越す密岡にどきりとする。
『そういや音楽何も流してなかったなと思って。退屈だったろ。ごめんな？』
「や、あの全然！乗ってるだけで新鮮で楽しいし」
『そ？エンジンの音聞いてるのが好きだから1人だといつもこんな感じでさ』
「ミツさんらしいかも」
その後も他愛もない話をしていれば、30分程で密岡のマンションに着いた。
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作者名：すずめ | 作成日時：2024年3月25日 17時
