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翌朝目覚めると、爛れはさらに広がり、手の甲を覆い尽くすかのように侵食していた。
「ねぇ、それ…、一体どうなってるの？試合、無理しないで辞めておきなよ」
『いや？痛みは引いてるし、問題なく動けるだろ。福也はいつも通り、ね？』
そして福也は朝からずっとこの調子である。
心配かけている俺も悪いが、俺にとっては動けさえすれば問題ない。
…これ以上、長引かせるつもりはないのだから。
ドームに着いてもAの言い分は変わらず、どんなに言葉を掛けても頑として頷くことはなかった。
確かに動作は問題なさそうだし、痛みもないと言われてしまえば、無理に引き止めることもできないだろうけど。でも。
周囲は俺達の雰囲気がいつもと違うことを感じ取って、何かあったのかと此方の様子を観察してはソワソワしている。
「ねぇA、やっぱりさ、『福也』
『…君が俺を心配してくれたように、俺も大切なものに手を出されたら、黙っていられないんだよね』
『俺は、落とし前はきっちり付けるタイプだよ。福也はいつも通り投げていれば良い。ね？』
Aは俺の顔の横に手を付き、ぐっと顔を近付けて、そう言い放った。
Aの垂れ目がちな目は、いつものようなぼんやりとしたものではなく、鋭く、力強い眼差しで、思わず口を噤んでしまう。
近くで見る瞳は鋭い光を放っていて、思わず吸い込まれそうになってしまうが、これがAの怒りなのだということがひしひしと伝わって来た。
―――静かで、冷たい怒り。
あぁ、あの女はAを怒らせたのか。
「…美人が怒ると怖いってこういうことなのか」
「……壁ドン」
「アホ、今はそういう場面やない」
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作者名：すずめ | 作成日時：2024年3月25日 17時
