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――ミツさんは、不思議な人だ。
ミツさんに肩を叩いて励まされれば、身体が軽くなる(本人はお祓いじゃないと言うが)。
ミツさんに頭を撫でてもらえば、頭がクリアになって気持ちも自然と切り替わる(思わず本人を拝んだら軽く嫌がられた)。
言葉よりも、些細な態度で温かさを分けてくれる、そんな先輩。
だからこそ、不安な時に頼りたくなるのかもしれない。
俺がテーブルの上に出したのは、一通の手紙。
一見すればただのよくあるファンレターのようだったが、そうじゃなかった。
いつも通りファンからの差し入れを受け取ったものの、その日ロッカーに入れたまま持ち帰るのを忘れてしまった。
それなのに、この手紙だけが車の後部座席にポツンとあった。
たまたまバッグに入れておいたものが落ちたのかと思い自宅に置いてきたのだが、翌日球場のロッカーを開けると例の手紙が入っていた。
極めつけは、さらにその翌日。遠征先で自分に宛てがわれた部屋に着いた時、ベッドの上に手紙が置いてあるのが見えた。見てしまった。
捨てるにも捨てられず(きっと捨てなくても俺の処に戻って来るのだろうが)、ただただ怖かった。
『…それで？中身は開けて見たのか？』
「開けるわけないじゃないすか！本当は今だって持ってることすら怖いねんから！」
「…でも、本当に普通のファンレターやとしたら、こんなに気味悪がってたら悪いすよね」
『…ハッキリ言うと、これは良くない。まぁ…、おそらく相手はそれに全く気付いていないだろうけど。』
ちょっと視てもいいか？とミツさんは俺の頬に手を当てて、じっと目を覗き込んだ。
何だか吸い込まれるような、不思議な瞳の揺らめきが見えた。
―――30秒、はたまた1分は経ったのだろうか。
ミツさんはそっと合わせていた目を逸らし、次に手紙を両手のひらで挟むように持った。
これは丁重にお返ししよう、そう呟き、フッと手紙に息を吹きかけると、そのまま封筒を開けた。
俺も気になって一緒に中身を覗き込んだが、そこにあったのはただの真っ白な便箋で、それだけだった。
『…もう大丈夫。ここにあるのはただの紙。言葉通り、白紙に戻した、ってね。』
『泰ちゃんには何も視えないし、もう何も怖いことが起きないよ。』
そう言うと、ミツさんはいつも通りの笑みを浮かべ、頭を撫でてサロンを出て行った。
(…やっぱ、ミツさんすげーわ)
(呪いを返すだけなら簡単だけど…)
(想いが積み重なって、煮詰まって、ドロドロにこびり付く前に、)
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作者名：すずめ | 作成日時：2024年3月25日 17時
