うしろの正面 ページ20
(眩しいものに惹きつけられるのは人だけじゃないということ)
ライトに眩しく照らされるマウンド。
四方八方からの光で、足元には幾重にも影が出来ている。
投球動作に入れば影も一緒に動き、マウンド上でガッツポーズを決めれば、影もまた然り。
歓声と熱気に包まれた球場では、足元の影が1体逃げ出したとて、気付く者など、誰1人いなかった。
―――ひたひた、―ひたひた、
誰かが、此方へ近付いてくる―――
宮城大弥は絶賛困惑中だった。
…最近、何かが変だ。
ふとした時に何もないところから視線を感じたり、足音が聞こえたと思ったのに、誰もいなかったり。
シーズン中で疲れが溜まってきているせいかとも思ったが、いくら身体の疲れを取ったとしても、どうにもその違和感はなくなってくれなかった。
「…ってな事があってさー、1回気になると何か変に考えちゃうんだよな。」
「ふーん。気の所為じゃなくて？」
「俺もそう思ってるんだけどねー。別に何もないからいいんだけどさぁ。」
くれには気の所為と言ったものの、…正直、今のところは気の所為半分、気味悪い半分。
住居はセキュリティがしっかりしている所を選んでいるので、ストーカーの類は心配ない、はずだ。
あれから数日が経ち、遠征中は違和感を感じなかったこともあり、俺の中で"やっぱり気の所為だった"と結論付けようとしていた時だった。
―――ひたひた、―ひたひた、
―――――"ねぇ、 … …… … "
……まただ。
しかも今度は人の声なようなものまで聞こなかったか？
耳を澄ましてみる。
―――ひたひた、―ひたひた、
―――――"ねぇ、…… ち… い てよ"
やっぱりそうだ。…気の所為じゃない、何か喋っている。
気味が悪い。一体何なんだ？
確かめてしまいたい気持ちもあるが、何となく声のする方へ行ってはいけない気がして、とにかく足音が通り過ぎるのを待つしかなかった。
あれから気付けば朝になっていたので、寝落ちしたのか、多少は睡眠も取っていたのだろう。
しかし、昨晩の出来事のせいで全然疲れは取れておらず、球場へ向かういつも通りの道中も、ずっと身体も気持ちも重いままだった。
球場に着けば皆でいるから安心だけど、家に帰ったら、……1人は嫌だ。
…また今日も同じ事が起きたらどうしよう。
"1…がい なら、こっち…お でよ"
"い… から迎え……行 …… あ…る"
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 186人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すずめ | 作成日時：2024年3月25日 17時
