名前を呼ぶということ ページ15
(自分の気持ちに嘘は付けないと気付かされた時のこと)
"名前で呼んでほしい"
決して嫌なんじゃない。俺が怖がっているだけなんだ。
名字は別にいい。名字だけなら不特定多数の人が当てはまるし。
あだ名も別にいい。本名じゃないから。
名前は"その人そのもの"を表すものだから、名前を呼ぶというのは、つまり、そういうことだ。
―――言霊とはよく言ったもので。
―――声に出してしまえば、力を持ってしまうから。
由伸と颯一郎から思わず逃げてしまったが、その場凌ぎでしかないことはわかっていた。
あの2人には本当に悪いことをしてしまった。
今までも友達が出来れば呼び方に悩むことは何度もあって、その度にやんわり躱してきたけれど、今回ばかりはそれも出来そうになくて、反応に困った挙げ句、逃げ出した。
…2人のことも、自分の気持ちも、どうにも誤魔化せなかった。
困らせたよな、傷付けただろうな、ぐるぐると同じ事を考えてしまうばかりで、あの場の正解が俺にはどうしてもわからなかった。
こんな俺に対しても普段からよく話しかけてきてくれるし、たまに一緒にご飯に行くこともある(お酒だけは潰されるから嫌だと断固拒否されるが)。
懐いてくれているんだろうと感じていたからこそ、これ以上近付いてしまうのが怖いというのも本音で。
―――人付き合いに臆病な自分が本当に嫌になる、と自嘲気味に笑った。
ロッカールームで着替えている時に聞こえてきた話し声。
どうやら周平と福也は、この後由伸と颯一郎をご飯に連れて行くらしかった。
ふと周平の方を見ると、俺に向かってウィンクしてきたので、多分「任せとけ」という意味なんだと思う。
それなら、と俺はその気遣いに素直に甘えることにした。
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作者名:すずめ | 作成日時:2024年3月25日 17時