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―――Aは、変なところで臆病だ。
どんな野次が飛んできても顔色一つ変えずに打席に立ってるし、いけると思えば怪我を恐れずボールを追いかけてダイビングキャッチを試みるし。
困っている人がいればさりげなく手を貸すし、後輩がダル絡みしたって1回1回ちゃんと相手をしてあげる。
Aのことを詳しく知らない人達からすれば、堂々とプレーをしていて、分け隔てなく周りとも付き合える、穏やかな人物に見えるのだろう。
しかしそれは、周りと上手くやっていくために、周りに溶け込むために、Aが今まで必死に身に着けてきたものだ。
―――Aには、どこかで必ず線引きをしているような、最後まで踏み込ませない何かがある。
こちらがもう一歩と踏み出した途端、気付かれないように、ごく自然に、自分と相手との間にスッと一本の線を引くのだ。
本当によく見ていないとわからないくらいの、ほんのちょっとの、違和感。
細い線のようでいて、その線はとてつもなく太くて、簡単には踏み越えさせてくれない。
相手を巻き込まないようにという気遣いと、おそらく、自分が傷付きたくないという防衛。
アイツは自分の体質のせいで周りに迷惑をかけないかと気にしているが、俺は、1番怖がっているのはA自身なのだろうと思っている。
1度その線を越えてしまえば、Aはまるで宝物を扱うかのように、壊さないように必死に守ろうとするのだが。
―――その不器用さすらも愛おしい、…なぁんて。
同級生で、同期入団で、気付いたらAの世話を焼くようにもなってて。
ようやくこの距離感まで辿り着いたのだ。
そう簡単に後輩に追い越されるとは思っていないが、きっとAはあの2人にも線を踏み越えるのを許すのだろうと、そんな直感があった。
…そう思うと、少しだけ寂しいような、悔しいような気もする。
(可愛い後輩達だから、このくらいは手伝ってあげようかな)
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作者名：すずめ | 作成日時：2024年3月25日 17時
