名前を呼んでほしいだけなのに ページ12
(「おまじない」の少し後)(近付きたいのに近付けない、矛盾を抱えた時のこと)
「ねーえー、ミツさぁーん!いいじゃないすかぁー!」
『可愛く言っても無駄ですぅー』
「ミツさんだって、可愛く言ってもダメですぅー」
「……なんや、あれ。」
球場に着くなり、Aが颯一郎と由伸に追いかけ回されている光景が目に飛び込んで来た。
後輩達に慕われてるのは微笑ましいが、何がどうしてそうなったのか。
Aも2人の勢いに困った様子で相手をしているし、あれはそろそろ本気で逃げ出すな。
「あっ!そーいち!ミツさん逃げる!!」
「ミツさん逃げんといてー!って、行っちゃった…。ほんま逃げ足速いで、あの人。」
2人してシュンと項垂れている。
…やれやれ、そんな顔見たら放っておけへんやん。
「2人してAのこと追い込んで何する気だったん?」
「見てる分には面白かったけど、あそこまで本気で逃げてるアイツは久々に見たで。」
「しゅーへーさーん…なんでミツさんは下の名前で呼んでくれないんすか?」
「はぁ?」
「だって一緒のチームでそこそこ付き合い長いやろ?ミツさんとも仲良くなれたと思ってお願いしたんすよ。それなのに……」
「周平さんも福さんも呼び捨てやないすか。何で俺らは呼んでくれないんすか?」
同級生ばっかずるい!ミツさんのケチ!と、2人揃ってむくれている。
なんや、その可愛い悩み。でもまあ確かに、気にはなるわな。
…ここはしゃーない、先輩として面倒見たるか。
「今日、ご飯行こか。福也にも声掛けとくから。」
ロッカールームで着替えていると、Aがこっちをチラチラ気にして見ていることに気付いた。
「こっちは任しとき」という意味を込めてウィンクしたら小さく頷いたので、俺の言いたいことは伝わったらしい。
……こっちもこっちで世話が焼けるで、ホンマ。
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作者名:すずめ | 作成日時:2024年3月25日 17時