第128話 ページ35
.
店員さんの提案に、Aの顔がパッと輝く。
「いいんですか、ぜひお願いします！寒い日の服装で、おしゃれも加味して、とかってやったことなくって」
「そうですよね〜。それじゃあ、着たいイメージとか、お出かけ先とか、いろいろお話を聞いてもいいですか？」
「はい！」
店員さんに聞かれるまま、明日は夜に出かけること、夕飯を食べてその足でどこかに行くらしいこと、少し歩くのであまり動きにくい服装はやめておけと言われたこと、を話してみる。
「ふむふむ……いつも着ているお洋服は、今着ていらっしゃるようなテイストで？」
「あ、はい。でもこれは仕事着を兼ねてるというか、仕事とプライベートの境界が曖昧なのでいつでも動けるようにシンプルにしているというか……」
「なるほど。では、お客様が『本当はこういうの着てみたいな』と思っていらっしゃるのは？」
「えーっと……」
やはり、慣れていないと「自分が着てもいいものだろうか」と躊躇う気持ちが先に来てしまう。
「遠慮しなくてもいいんですよ。お客様が着てみたいと思う気持ちをできうる限り叶えて、もっともっと素敵に仕上げていくのが、私達ファッションスタッフの仕事ですから！」
安心していいんだよ、と言わんばかりに笑顔を浮かべてくれる店員さんに勇気をもらい、恐々希望を口にしてみる。
「なんというか……パッと見て『可愛い！』って感じっていうか。レースやフリルが使われてたり、ふわふわしてたり、……伝わりますかね？」
「ええ、ええ！きっとお似合いになりますよ！」
「ほんとですか……？」
「もちろんです。お客様はお肌も色白ですから、女の子らしいイメージの服もよくお似合いだと思いますよ！きっと彼氏さんも可愛くてびっくりするはずです！」
「え、彼氏さんって？」
「あら、勘違いしてましたか。すみません。てっきりデートのためにお洋服を買いにいらっしゃったのかなと」
「いえいえ全然！確かに男性の方と一緒ですけど、単なる友人……いや友人というより仕事仲間……っていうのも違うなあ、尊敬と親愛は確かなんですけど……」
いや、それよりもここに来た大前提があった。
「っていうかそもそも、明日お洒落して来いってその人に指示されちゃったのでこうして服を探しに来たんです」
「あらまあ」
店員さんは少々驚いた後、すぐに笑顔を取り戻した。
「ならきっとその人は、可愛い姿のお客様と一緒に過ごすことを楽しみにしているんでしょうね」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 59人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リトルポム | 作成日時：2022年8月3日 23時
