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6・再び体内 ページ8





何故この女がここに居るのだろう。


「私、体内送りになったの初めてなんだけど……中々に素敵だね。暗くて涼しいし」


俺の少し離れた地面に膝を抱えて座っている、黒髪の女。着ている服も同じく黒なので、肌だけが暗闇の中で異様に白く見える。

ついさっき自警団に連れられてきたこいつは、体内送りになった自覚が無いのか、普段と同じ笑みを崩さない。


「お前、何でここに居るんだ」


するとそいつは人差し指を頬に添えて首を傾げて見せた。妙にわざとらしく、艶かしく見えて俺は目を逸らす。


「賢いきみなら、予想がついていると思うんだけど」


確かに予想はついていた。俺はその予想を口にする。


「あの島に行ったのか」

「ん」

「何をしに行ったんだ」

「せっかくだから、きみの考えを聞きたいな」


この女は苦手だ。穏やかな笑みの裏で何を考えているのか判らない。その癖してこっちの考えを見透かされているような錯覚に陥る。

何にせよ気味が悪い。そう思いながら俺は云った。


「お前はあの島に何があるのか知っていたんじゃないのか。最初から」


思えば最初に俺たちの元に来た時の態度にも、そう思わせる節があった。この女は知っていた。最初から。

恐らくはあの人の感情を食べる、ヌースと云う生き物の事も。


「……違うか」


そいつはしばらくふらふらと視線をさ迷わせた後、目を閉じて上を向いた。その口許は変わらず緩やかに弧を描いている。


「きみがそう思うんなら、そうなんじゃないかな」


曖昧な返事だ。どちらかと云えば肯定的だが、それでもまだ不明瞭で、そいつの思考も意思も読み取れない。

あの島の女は心が無いと云っていたが、この女もある意味で心が無いようなものだ。


「説明しろ。何でお前はあの島の事を知って」

「きみは私の事をよく判らないと思っているのかもしれないけど」


声を荒らげて言及する俺を遮って、そいつが云った。


「私にだって、私自身のことがよく判らない。だから──」


不意に言葉が途切れる。静寂が降りた。聞こえるのは、隅で丸くなって寝ている記録係の規則正しい寝息だけ。


「だから……何だ」


俺は先を急かした。しかしそいつは一向に口を開かず、虚空の一点を見つめている。


「……ううん、やっぱり何でもない」


そいつは首を横に振ると、膝を引き寄せて腕に顔を埋めた。それきり顔を上げずに、話を続ける気配も無い。


少しだけこの女の本質が見えたような気がした。

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猫目 - 今更ながらコメント失礼します!同じく私もシュアン推しなので見つけたときめっちゃテンション上がりました!見ていらっしゃるかは分かりませんんが更新応援しております(^^) (2019年3月26日 20時) (レス) id: 619380b1ab (このIDを非表示/違反報告)
りぃふ - はじめまして。今更コメント失礼します!私はクジ砂中でシュアンがとても好きなので、この小説を見つけた時はすごく嬉しかったです!このお話のおかげで今だいぶシュアン沼にハマってます…笑お忙しいとは思いますが、更新楽しみに待っています。(*^^*) (2018年6月24日 19時) (レス) id: f3d7bfc71d (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - るりさん» ありがとうございます!同士嬉しいです!最近滞り気味ですが、時間を見付けて更新します! (2018年2月20日 17時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)
るり - 初めまして!私も団長さんが好きです!とても良い設定、話で好きになりました。これからもがんばってください続き待ってます (2018年2月16日 17時) (レス) id: 1a80d02d72 (このIDを非表示/違反報告)
なつみん - 裕貴さん» 裕貴さん、はじめまして!私も団長さんが一番好きなので、そう言って頂けると嬉しいです。皆様のコメントを励みに、これからも頑張ろうと思いますので、どうぞよろしくお願いします!コメントありがとうございました! (2017年12月22日 6時) (レス) id: 1a2989d09e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なつみん | 作成日時:2017年12月17日 16時

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