太宰治に成り変わったんだが《文スト》

４話 ページ4

マフィアと云うものは、人を殺めて利益を得る組織の筈だ。


私は人間の本質が知りたくて、死にたいと願いながらも生きる理由を見つけるために、此処に入った筈だった。


『……………何故。』


組織に加入し、何冊もの戦略的理論の本を読まされた。

そこら辺の下級構成員なんかよりは、使える頭になっていたし、銃の腕前も左藤さんほどでは無いにしても上がっているのに。



殺しの任務がこない。



『…………つまんない、ねぇ』


何度も読み返した理論の本をパタリと閉じて、鏡を見てみる。


以前の世界の、平凡な私とは程遠い美貌。

本来の太宰治の性質を引き継いでいるからか、黒茶の髪の毛は中々云うことを聞かないし、鳶色の瞳は恐ろしく空虚だ。

それに、死にたくてたまらない。

何もかも分かってしまうから、何もかも理解してしまうから。

つまらなくて、空虚で、出来損ないの世界。


自然に漏れたため息に苦笑すると、コンコンと自室の扉が叩かれた。


返事をするまもなく入ってきたのは、一人の花魁のような女性だった。


｢そちが太宰Aかえ？｣


『……………えぇ。』


｢わっちの名は尾崎紅葉。そちの初仕事に付き合うべく此処に参った。｣



さぁ、始めて此の手を染めるときが来たようだ。

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