2 声 ページ2
じりじりと、紫外線と蝉の声が僕を刺激していた。あいつの名前が彫られた石の前、線香の匂いが、死を突きつける。未だ、僕はあいつが死んだことを、完全には受け入れられていない。死んでいない、あいつは生きている、僕とまた会ってくれるはずだ、という僕の願いが、脳を麻痺させる。
「……今日は、特になんもない、良い日だったよ。明日は課題がめっちゃ出るらしいから、これないと思う」
返事を待つが、蝉の声しか耳に入らなかった。あいつは今、天国にいるのだろうか、それとも、死んでしまった場所にいるのだろうか。
「ここにいれば良いのになぁ」
そっと、墓石に触れる。日陰にあるからか、まるで人肌のような暖かさだった。つい、鼻がツンとしてしまったので、すぐに手を離す。
「また、ね」
さっと立ち上がり、踵をかえす。僕はあの電話からほぼ毎日、こうしてあいつの墓に来ていた。おかげで墓石は周りのものより綺麗だし、手際も良くなった。これだけ来ているのにもかかわらず、死を受け入れられていないのはどうなんだと思うが、学業をサボっているわけでも、生きる気力がなくなっているわけでもない。今は、これで良いと思う。
今日も、墓に来た。
「やっほー来たよ。今日はね、僕が好きなお菓子持ってきたよ。欲しい？ なーんて、あげませーん！ ……あげられたら、いいんだけどね」
自分で自分を悲しませるような行動をしてしまうのは、なぜだろうか。あいつが死んでから、僕は僕がわからなくなっている気がする。
「今日ね、お前の昔の友達にさ、ほら、昔遊んでたことあったでしょ。そう、あいつにね、お前のこと聞かれてね。不動の連絡先知ってる？ って」
口に出してから気づく。ああ、あいつあいつと言っていたこいつは、不動という名前だったな、と。
「自分が辛いからって、僕、お前のこと忘れようとしてたのか」
声が震えた。沈みきったと思った心が、さらに深く落ちて行くのを感じる。
「不動、僕、やっぱり生きていけないよ……でも、死ぬのは怖いよ……不動っ」
悲しみを抱え込むようにして、うつむくと、両目から涙がはらはらと流れる。そこからはただただ、声を殺して泣いた。
ふと、肩に温もりを感じた。
「渡貫、ごめん」
僕の名前を呼ぶ、声。人を忘れるのは声からだと言う。でも、僕はこの声を知っている。最後の最後まで、聞いていたから。
「不動……？」
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作者名：久我 羊 | 作成日時：2021年10月19日 19時
