消えない雫 ページ37
お昼頃から降り出した雨がフロントガラスを濡らす。
花ちゃんの助言を実行できず、日曜日の今日も意味の無い外出を繰り返していた。
せっかくの後押しを無駄にしたくない。
頭では考えているのに行動に移せないのは、昔からの悪い癖だ。
いっそう酷くなる雨を眺めながらため息を吐き、いつの間にか着いていた家の駐車場に車を停める。
傘をささずダッシュで屋根の下まで行き、服にじんわりと滲む雫を払いながら階段を上る。
自分の部屋の扉が見える位置に来た所で、私の足は止まった。
視線の先には、扉の前に俯きながら座り込むしるこの姿があった。
決して暖かいとは言えないこの季節にずぶ濡れのその姿を見て、現状を全て忘れて走り寄っていた。
『しるこ？！何してんのこんな所で！そんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ！』
し「っ…A…？」
『待って、今開けるから取り敢えず着替え…』
言いながら鍵を回そうとした所で、いつの間にか立ち上がっていたしるこに腕を掴まれる。
し「何で、連絡くれなかったの？」
後ろめたい気持ちが、私に振り返る事を許さない。
掴まれた腕から体温が下がってく錯覚に陥った。
し「俺の事嫌いならそう言ってよ。何も言わずに居なくならないで。またAを失ったら…今度こそ消えちゃったらって…おれ…っ…」
嗚咽混じりの声に思わず振り返る。
髪から滴る雫でも隠し切れないほどの涙を拭おうともせず、瞳が真っ直ぐに私を捉えていた。
遅すぎる後悔が脳を伝う。
しるこがこう思ったのは、私の過去を話したせいだ。
しるこを泣かせたのも、
心配をかけたのも、
全部私のせいだ。
分かってる。
なのにその涙を止めたいと思うのは、我儘なんだろう。
自分の服に構わず、ずぶ濡れの体を抱きしめた。
『ごめん』
水分を吸収する衣服と対照に、私の口は次々に言葉を吐き出した。
自分本位な気持ちを消したかったこと。
止められるとわかっていて連絡しなかったこと。
正一と花ちゃんの言葉が脳裏に浮かぶ。
許されなくても、真実と心からの謝罪を伝えなければならないと思った。
着替えを終えたところで、送って行くよと声をかける。
し「違うよA」
『え？』
し「一緒に帰ろう」
そうだ、私は大事な事を忘れていた。
この人の優しさを、
強い心を、
消せない笑顔を。
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作者名：梔子 | 作成日時：2022年4月3日 11時
