凪いだ日も ページ31
しるこから泊まっていくよういつもより強い要望を受けた私は、本日もしるこ家の住人である。
「代理の最後の日だから」というしるこの発言は、代理を延長する必要が無いことを示していた。
最近は体調も優れているし、強がっているわけでは無さそうだから、文字通り受け取っても問題ないだろう。
今日は初心に返ってはこたろーと2人で動画を撮ることに決めていた。
いつ撮るかやどのゲームにするかなどを話し合っていると、不意に後ろから手が伸びて肩が重くなる。
『うわっ、ちょっとしるこ！危ないでしょ』
し「ごめん」
急に後ろから抱きつかれたため重心が傾き、倒れそうになるのを筋力を使って回避する。
いつもはその辺も配慮してくるのに、今日は違うみたいだ。
『何、どうしたの？』
し「…最近、みんなに夢中で全然構ってくれなかったから。」
『何言ってんのよ、一緒に居る時間はしるこが1番長いでしょ？私は昨日も今日も泊まってるんだし』
し「そうだけど…そうじゃない」
『うーん…これじゃ私、撮影できないんだけどなぁ』
し「…」
返事がない様子を見るに、分かってはいるけど…ってところかな。
しるこはたまに強情だけど、こういう場面でそれが出ることは滅多にない。
は「兄さん、Aが困るからやめなよ」
『大丈夫だよはこたろー。ありがとう』
は「でも…」
『撮るのは午後にしよっか』
私の提案に渋々頷いたはこたろーの表情は不服そうだ。
困るのは確かだけど、しるこの言う通り、最近ゆっくり話す時間がなかったことは事実だ。
今日ぐらいはいいだろうという考えに至った。
は「Aは兄さんに甘すぎるよ」
『そういう自分だって甘いでしょ』
は「いや、どこが？僕は兄さんの我儘聞いたりしないよ」
声のトーンからするに、ちょっと怒ってる…というより拗ねてる気がする。
普段はしっかりしているけど、時々弟らしくなるのが可愛い。推し。
『はこたろー、ちょっとおいで』
は「何？」
近くに座るよう促し、しるこのせいで可動域の狭い腕をのばして頭を撫でた。
は「え、ちょっ、何？」
『最近忙しくて疲れたでしょ。だからちょっと休憩ね。そしたら動画撮ろう』
は「…うん」
半分は落ち着かせるための言い訳だけど
本当の所、今日くらいは皆で一息ついてもいいと思うんだ。
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作者名：梔子 | 作成日時：2022年4月3日 11時
