6話 ページ8
くるくると場面が入れ替わっていく。
次々と現れる人間が変わっていく。
それは室内であったり、屋外であり、昼であり夜だった。
温かいのに驚くほど冷たく、美しいのに穢れ切った世界の中心に立ち尽くしていたAは不意に、それが夢であることを理解した。
しかも、ただの夢ではなく、過去の記憶だ。
今まで何度か経験のあることだ。
きっと現実世界の自分は疲れ切って体調不良を起こしているのだろう。
目が覚めればきっと、「また無茶をして……いい加減に限度を知りなさい」とたしなめられるのだろうか。
くるくると世界がまわった。
やけに重苦しい空気。
きっちりと着込んだ服が苦しい。
第一ボタンまでしっかりと留めたシャツの首元を、ネクタイを緩めて寛げたい衝動に駆られたが、背後からの厳しい視線がそれを咎める。
首元にのばした手でネクタイを締めなおして口を開く。
被告、原告、陪審員の視線が突き刺さった。
オールバックにした髪からパラリと落とした前髪が右目にかかった。
できるだけ理性的で、それでいて周りに安心感を与え、すっと耳に入っていく声。
確実に全員の意識を自分に集中させていく。
最後の言葉を発し終えるまで、決してその集中を解かなかった。
陪審員たちが審議に入る。
そっと用意されていたミネラルウォーターを口に含んだ。
できるだけ見えるところでは汗をかかないようにしていたけれどそれでも汗はかいてしまっていたので、喉を通る水が心地よかった。
「それでは、審議の結果を」
「被告……−−無罪」
ホッと息を吐いた。
もうこれで終わりだ。
さっさとお暇しよう。
これ以上弁護士の役を演じる必要はないのだ。
取材陣に捕まるのが嫌で、途中化粧室に立ち寄って元の顔に戻る。
鏡に映ったその顔は、とてもじゃないけれど先ほどの役の年齢に及ばなかった。
――悪人を無罪にした。
組織にとって大切な人だったから。
被害者は自分にとって無縁の人だ。
でも、その人には家族がいて、同僚がいて、恋人がいた。
その人たちが抱える無念を、自分は陪審員の心を操ることによって果たせなくしてしまった。
「――……帰ろう、もう」
外ではベルモットが待っているはずだった。
眩しい世界に足を踏み出したところで、また世界は回った。
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はちうん(プロフ) - くろさん» 結構危うい線ばかり渡っているので気を付けます。コメントありがとうございますね。 (2017年7月12日 21時) (レス) id: 52741b67fc (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - え、昴さんもアルバム見ちゃうの?コナン=新一だともろ、怪しまれるんじゃw更新待ってます。 (2017年7月11日 10時) (レス) id: 63c7811fee (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - くろさん» ありがとうございます。これからも頑張りますね。 (2017年5月16日 6時) (レス) id: 8bc22cead9 (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - メンタリスト!あまりというか今まで読んだことないお話です!!続き楽しみにしてます! (2017年5月15日 15時) (レス) id: b1672a66d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちうん | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2017年4月27日 23時