3話 ページ5
とりあえず怪我の具合をみる、という事で連れて来られたのは病院だった。
病院は苦手だった。
大切な人ほど、病院のようなしっかりとした場所では亡くなってくれないが、それでも何処からか漂う死の香りを嫌というほど嗅ぎ取ってしまう。
人の心を感じるのは得意で、だからこそ操ることも多少なりともできる。
そのお陰で大した事も出来ないのにメンタリストなどと呼ばれて立場のようなものがある。
人より何かが優れているという事自体は決して悪いことではない。
例えばそれは洞察力であったり、求心力であったり、推理力や狙撃能力で、Aの場合は人の子心を読むことだ。
だが、自分はこの能力だけは要らなかったと思っている。
今も、ただ病院内の廊下を歩いているだけなのに、受け取る情報が多すぎる。
いつもは意識して抑制しているのに、病院ではなぜだかそれが上手くいかない。
抱えきれない感情の弾丸を、逃げ場のない白い壁の前でただただ浴びせられているようだった。
「……すみません、ちょっと気分が悪いので……お手洗いに行かせていただいても?」
「え、大丈夫ですか?」
「はい……事件の疲れが、今になって来てるみたいで」
人の感情が気持ち悪くて、とも言えずに、逃げるようにして個室に入った。
扉の鍵をかけた瞬間、一気に体の力が抜けて扉に寄りかかるようにして足元から崩れる。
病院のトイレはスペースを広くとっていて、そのことに初めてAは今いる場所が病院であったことに感謝した。
最も、気分の悪さの原因も病院に来たことだったが。
早く戻らないとあの刑事が心配して突入してこないとも限らない。
彼はそういう性質の人だ。
何故だか荒くなってきた息を整えるために深呼吸を繰り返す。
なんだかやけに熱っぽい気がした。
そう言えば、一昨日は連載の締め切りで、終わってすぐに待ち合わせの予定を立てて、荒れた家の掃除をして……
休んだ記憶も、食事をとった記憶もあいまいだった。
これはやらかしたかもしれない。
連絡を取ろうにも、今は普通の携帯しか持っていない。
「たぶん、直ぐに良くなる……よね」
半ば自分に言い聞かせるようにつぶやく。
もちろん言葉を返すような存在は此処にはいない。
ガサゴソと鞄の中を漁って渡されていた薬を取り出した。
没収されても困るし、使い道が違うので今ここで飲むわけにはいかない。
心の中で謝りながら、それをトイレに流した。
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はちうん(プロフ) - くろさん» 結構危うい線ばかり渡っているので気を付けます。コメントありがとうございますね。 (2017年7月12日 21時) (レス) id: 52741b67fc (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - え、昴さんもアルバム見ちゃうの?コナン=新一だともろ、怪しまれるんじゃw更新待ってます。 (2017年7月11日 10時) (レス) id: 63c7811fee (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - くろさん» ありがとうございます。これからも頑張りますね。 (2017年5月16日 6時) (レス) id: 8bc22cead9 (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - メンタリスト!あまりというか今まで読んだことないお話です!!続き楽しみにしてます! (2017年5月15日 15時) (レス) id: b1672a66d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちうん | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2017年4月27日 23時