26話 ページ28
『白神 しずく』
現代小説を中心に活動をしている作家。
二年前に発表した処女作【虚ろなる世界の霧】がデビュー作となる。
「――人に語れるような過去はありませんでした」
という言葉が冒頭の通り、記憶喪失の男が主人公の話で、最後に記憶を取り戻すという話だ。
ありきたりなように思えて、所々に凝らされている工夫と、人間心理の巧みな表現が作品の完成度を高めている。
その後はミステリーやファンタジー、分野を問わないで執筆をしている。
しずくという名前から女性と間違われがちだが、男性である。
また、サイン会を行うものの、毎回顔出しを避けており、その年齢も怪しいとされる。
「……わかったっていうのか、コレ」
「そう言ってもね……一応、結構努力はしたのよ? 私も彼の事気になっていたし……【虚ろなる世界の霧】――白神先生の闇の深さを感じるわ」
灰原が調べた資料を見せてもらいながら、愚痴にも似た言葉を零す。
彼女は、何処か怪しい笑みを浮かべながらパソコンの隣に置いていた本の背表紙を撫でる。
【虚ろなる世界の霧】――彼のデビュー作で、灰原の一番のお気に入り、そして彼女がサイン会に持って行った本でもある。
「過去の記録が無いのは確かに怪しいけど、でもペンネームを使っている上に、素顔を公表してないんでしょう? 書店での事件で会った時だって、本当の顔だったのかどうか……」
言われてみれば、確かにそうなのだ。
顔も名前もわからないのであれば、過去の経歴がわからないのも道理だ。
それにしても、何か手がありそうなものだったが、ぱっと浮かんでは来なかった。
「でも、確かにココまで漁って何もないっていうのは不思議ね。デビュー前は違うペンネームを使ってるのかと思って、ここ数年の賞を漁って最終選考まで残った様な作品を見てみたのよ。でも、彼の文体らしいものはなかった――工藤君、貴方の意見が聞きたいんだけど……何の足掛かりも無しに、人っていきなり賞を取れるものなの?」
灰原に言われて気づく。
そうだ、文体。
文体は基本的に変わらないもので、ストーリー構成、展開、好むタイプなど、そういう事も彼の作品を作る要素で、いわゆる癖だ。
父がミステリーを好むように、キッドが派手な演出を好むように、ホームズが最後には事件を解決するように、物事には大抵何らかの規則がある。
それを辿れば彼の過去もわかりそうなものだったが……。
灰原の質問の意図は、そこにあるのだろう。
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はちうん(プロフ) - くろさん» 結構危うい線ばかり渡っているので気を付けます。コメントありがとうございますね。 (2017年7月12日 21時) (レス) id: 52741b67fc (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - え、昴さんもアルバム見ちゃうの?コナン=新一だともろ、怪しまれるんじゃw更新待ってます。 (2017年7月11日 10時) (レス) id: 63c7811fee (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - くろさん» ありがとうございます。これからも頑張りますね。 (2017年5月16日 6時) (レス) id: 8bc22cead9 (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - メンタリスト!あまりというか今まで読んだことないお話です!!続き楽しみにしてます! (2017年5月15日 15時) (レス) id: b1672a66d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちうん | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2017年4月27日 23時