23話 ページ25
「でも本当は――確信はありませんでした。彼女を逃がさずに捕まえられる自信はなかった。でも、あそこで爆破されるよりはマシだったんです。彼女も死にたくはなかっただろうし」
だから、自分が警察の目をごまかしている間に逃げろって言ったんです。
放っておけば川に身を投げそうな表情だった。
まるで、それは――
「あそこに守りたい人がいたし、僕にはあまり、生に執着する理由がなかった」
どうして、と訊ねる声が震えた。
ふと、被害者の顔を見た時の彼を思い出した。
死に対して、抗体があるような、落ち着いた表情。
「僕にも、好きな人がいたんです。――でも、彼女は僕を置いて行ってしまった。いや、僕が置いていかせてしまった。……こんな話、君みたいな子供にはあまりわからないよね」
ごめん、と言った彼は、そっと自分に背を向け、本屋から離れた道に足を踏み出す。
待って、と声を掛ける。
ん、と彼はゆっくり振り返った。
十分に距離が開いている事を確認して口を開く。
「お兄さんは、もしかして……悪い人、なの? この世にいることが、戸惑われるくらいに」
ぽちゃん、と魚が跳ねる音がした。
長いような、短いような沈黙が流れる。
「……うん。そうだね、たぶん僕は君のいう悪い人ってやつだ」
彼は迷うように視線を彷徨わせた後、何処か開き直った様に笑みを浮かべた。
「好きだった人もね、置いて行かれたのは僕がこういう人間だったから」
「名前は?」
「――……シェリー。僕の、大切だった人だ」
聞き覚えがある声だと思っていた。
でも、初めて聞く様な声だとも思った。
だから、彼の炙り出しの時の様子をみて、もしかしたら変装するのが得意なのかもしれないと思った。
そうしたら余裕ができて、そして不意に思い出した。
自分たちが待っている白神先生という人はずいぶん登場が遅いと。
特徴のある服の人だったし、茶髪だった。
変装していると知らなければ気づかなかった。
でも、気づいてみれば確かに、無駄に推理するような力があるのも、一般人を追い出した場所に居た理由も簡単に説明がついた。
「――人に語れるような過去はありませんでした」
彼の声が、彼のデビュー作の冒頭を呟いた。
衝撃で呼吸が乱れそうになるのを必死に抑えて、彼の姿を探したが、彼はもう何処にもいなかった。
彼の好きだったという人……。
彼は組織に黙っていてくれるだろうか。
あまり希望の無い考えを抱いて川を見た。
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はちうん(プロフ) - くろさん» 結構危うい線ばかり渡っているので気を付けます。コメントありがとうございますね。 (2017年7月12日 21時) (レス) id: 52741b67fc (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - え、昴さんもアルバム見ちゃうの?コナン=新一だともろ、怪しまれるんじゃw更新待ってます。 (2017年7月11日 10時) (レス) id: 63c7811fee (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - くろさん» ありがとうございます。これからも頑張りますね。 (2017年5月16日 6時) (レス) id: 8bc22cead9 (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - メンタリスト!あまりというか今まで読んだことないお話です!!続き楽しみにしてます! (2017年5月15日 15時) (レス) id: b1672a66d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちうん | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2017年4月27日 23時