16話 ページ18
「今日はよろしくお願いしますね」
にこにこ、とまではいかないが、にこやかな笑みを浮かべて手を差し出す。
サイン会の企画者であるらしい女性とそんな感じで挨拶を交わした後、最終確認をする。
「そういえば、適当に借りてしまっていいんですよね、あそこの部屋」
「はい、先生のご要望通りにしておきましたよ」
「ありがとうございます。色々と迷惑をかけてしまって申し訳ないですね」
「いえいえ。先生はあまり公の場に顔をお出しにならないので。その状態とはいえサイン会を開いてくださって嬉しいです」
はは、と笑ってからフードを被る。
挨拶の時は礼儀などの関係で外していたが、臨戦態勢にするにはやはり被らなければならない。
袖の調整をして字を書けるようにする。
段々と人が集まってくる音がする。
へまをしないようにしないとな、とあがり症気味の自分の性格を思い出しながら思う。
何度か紙に書く練習をするが、本番うまく書けるかはやはりわからなかった。
土曜とは言え、よの人々にとっては休日といえる日でもあるので、今日は割と人が多いというか、ちらほら子供の姿も見えた。
ジャンルの安定がしていない作風だったが、一部の人間にしか読まれていないというわけではないようで安心した。
「これ、お願いします」
と言って差し出されたのは最新作。
差し出してきたのは小さな少年だった。
眼鏡をかけていて、ぱっと見頭のよさそうな印象を受ける。
保護者的立場なのか、歳の離れた姉なのか、女性が同じように本を持って立っている。
あまり興味のなさそうな子供が三人と、同じくサインしてほしい本を持っている少女が一人。
最新刊は子供向けというわけではなかったけれど、と思いつつ何より目に留まったのは少年ではなかった。
「……シェリー、何で―――」
そんなはずない、そう思いながらポツリと言葉が零れる。
え、と訊き返してきた少年の言葉に我に返る。
「あ、ごめん、お名前は?」
「……江戸川コナン。コナンはカタカナだよ」
「コナン君か……ご両親はコナン・ドイルのファンとか?」
サインを書きながらそう訊ねると、彼はうん、とうなずいて返す。
この本を読むくらいだからコナン君も好きなんだろうな、と思った。
でも確かこの本はミステリーじゃない。
読む分野が広いとは感心だな、などとちょっとずれたことを考えながら、出来上がった本を渡した。
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はちうん(プロフ) - くろさん» 結構危うい線ばかり渡っているので気を付けます。コメントありがとうございますね。 (2017年7月12日 21時) (レス) id: 52741b67fc (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - え、昴さんもアルバム見ちゃうの?コナン=新一だともろ、怪しまれるんじゃw更新待ってます。 (2017年7月11日 10時) (レス) id: 63c7811fee (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - くろさん» ありがとうございます。これからも頑張りますね。 (2017年5月16日 6時) (レス) id: 8bc22cead9 (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - メンタリスト!あまりというか今まで読んだことないお話です!!続き楽しみにしてます! (2017年5月15日 15時) (レス) id: b1672a66d3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はちうん | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2017年4月27日 23時