第１０話 ページ10
イヤホンは繋がずに、画面いっぱいに広がった映像から暖房の効き始めた一人部屋に声が響く。
『えっと……ちゃんと誕生日に届いてるかな？ 届いてるといいなぁ……。誕生日おめでとう、A』
久しぶりに聴くユナの声に、胸の奥がギュッと掴まれるような感覚を覚えた。
少しずつ裏から入る音声が、状況が切迫している事を伝えているのに、彼女は不思議といつも通りのテンションで、落ち着いた声がよく耳に通った。
『去年メッセージを送ったのと同じくらいの時間設定だから、たぶん大丈夫だと思うけど。去年よりはAが自分の誕生日を大切にしてくれていると良いな……』
ぐらりと画面が揺れて、慌てたような声が響く。
ユナはそちらに注意を向けつつ、しばらくすると再び画面に向き合って話し始めた。
『でもAは優しいから、周りに合わせて誕生日を祝いながら、本当は心の中で泣きたがってるんじゃないかって、オンニは少し心配です。Aが生きている事と、私の運命と、その二つに因果関係は全くないんだって事を忘れないで』
真面目な表情で話すユナを見るのは久しぶりだった。
何でも深く考えてしまうAとバランスを取るように、高校に進学してからのユナは本来の明るい性分を十分に発揮していて、Aの事を救ってくれていた。
深く考えるのは自分で行うAと、降り積もる表面の不安を取り除くユナ。
彼女が深く考える時はAが寄り添って、今思えば、表面の不安を取り除いていたのは防弾少年団だったのかもしれない。
そんな彼女が真剣に話している。
彼女がそうまでして伝えなければならないと思っている事に多少なりとも心当たりがあって、唇を噛んだ。
彼女に恨まれた方が、きっとAは救われることができたのだ。
【A、ごめんね、ずっと愛してる。……許して】
最期にこんな言葉を遺した彼女が、自分を責めるわけもない。
責めて欲しいと思うのは、許さないでいて欲しいと願うのはAの勝手な感情でしかない。
『……悲しまないで。Aの行動が間違っていた事なんかないよ。私はあの一年がとても幸せだったから。ずっとそう思ってるから。……Aはまだ、私の部屋に行く勇気が無いと思う。でも、きっと来て。本当に偶然だけど……勉強机の右の引き出しに、私からの最後のプレゼントが入れてあるから……せめてそれだけは傍に置いて。お願い』
最後の、プレゼント。
復唱した声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 96人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はちうん(プロフ) - 繭さん» ありがとうございます。意識はしているのですが、たまに変な文章を書いてしまうので、そう言っていただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (2018年3月14日 16時) (
レス) id: 0891d2b9a3 (このIDを非表示/違反報告)
繭(プロフ) - コメント失礼します。はちうんさんの文風がすごく読みやすくて尊敬します！これからも頑張ってください！ (2018年3月13日 13時) (レス) id: dba4d43671 (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - KNさん» コメントありがとうございます、嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね。 (2018年3月12日 7時) (レス) id: 0891d2b9a3 (このIDを非表示/違反報告)
KN - コメント失礼します。この作品すごく好きです。毎日チェックしてます(笑)文章がとても綺麗ですね!これからも応援してます!ファイティン! (2018年3月12日 0時) (レス) id: de585078da (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：U_hi | 作者ホームページ：http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時：2018年2月19日 2時
