第30話 ページ30
「A、君がアメリカに行くかもしれないという話、ユナは先に知っていたんだ。私たちは家同士に交流があるから。ユナはね、今度は私がAに前に進む、決断をする勇気をあげたい、とそう言っていたよ。君に前に進んでほしかったのは、間違いなくユナの本心だ」
ただの軽い励ましの言葉ではないことは直ぐにわかった。
声のトーンが、当時を思い出しているようで、記憶を辿っている様子だった。
ソヨンは隣で頷きながら涙を流している。
「いい恋人同士だと思ったよ。互いの事を本当に考えられる者たちは、さほど多くはない。……A、これだけはしっかり覚えていてほしいい。ユナが中学でうまくいかなかったのは、学校がストレスに溢れていたからだ。生徒皆が、何処かに弱者を探していた。社会がそんな空気を作っていた」
「社会に潰されてしまったユナを救ったのは、あなたなのよ。あの子がもう一度、本当の笑顔を浮かべられるようになったのは、あなたと一緒だったから。高校生活、本当に楽しんでいたんだから」
連絡を取っていたのだからわかるでしょう、と問われて必死に頷いた。
あの時のユナの幸せを否定することは許されない。
あの時ユナは、確かに幸せに暮らしていて、だからこそ、それを奪う事になったあの事故が許せなくて、その原因となった自分自身も許せなかったのだ。
「そのユナを殺したのはな、君じゃない。社会だよ。……今の社会が、あんな事故を生んでしまったんだ。私たちが社会を変えることができなかったから、その社会に甘えていたから、だから多くの犠牲を払う事になった。今だって、まだあの事故は終わっちゃいないんだ。……終われるわけもない」
その時彼の瞳には、話し始めてから初めて怒りの色が浮かんだ。
けれどそれはAに向けられたものではなくて、彼の言葉通りならば社会に向けられたものなのだろう。
多くの犠牲を人々に無理やり払わせた、社会という非情なものに対する、ぶつけようのない怒り。
いっそ個人に向けたほうが気が楽なのに、彼は敢えてそうしない。
その理由が、Aは何となくわかる気がした。
「途方もないことだ。目を逸らしたくなるだろう、相手が大きすぎるって。でも、A、私たちには義務があるんだ。事実と向き合って、本当の原因に噛みついて、何が何でも同じことが二度と起きないように、そう努力する義務が」
真っ直ぐなところがそっくりだ、そう思いながら、とうとうAの涙腺は決壊した。
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はちうん(プロフ) - 繭さん» ありがとうございます。意識はしているのですが、たまに変な文章を書いてしまうので、そう言っていただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (2018年3月14日 16時) (レス) id: 0891d2b9a3 (このIDを非表示/違反報告)
繭(プロフ) - コメント失礼します。はちうんさんの文風がすごく読みやすくて尊敬します!これからも頑張ってください! (2018年3月13日 13時) (レス) id: dba4d43671 (このIDを非表示/違反報告)
はちうん(プロフ) - KNさん» コメントありがとうございます、嬉しいです。これからもよろしくお願いしますね。 (2018年3月12日 7時) (レス) id: 0891d2b9a3 (このIDを非表示/違反報告)
KN - コメント失礼します。この作品すごく好きです。毎日チェックしてます(笑)文章がとても綺麗ですね!これからも応援してます!ファイティン! (2018年3月12日 0時) (レス) id: de585078da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:U_hi | 作者ホームページ:http://id35.fm-p.jp/408/yuna3lone/
作成日時:2018年2月19日 2時