地位と 名誉と オカネと…【緑】

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ドアを開ければ、大きな紙袋を下げた安田さんが立っていた


「これ、引っ越し祝い」

「ありがとう…ございます」


袋の中を覗けば何冊もの問題集

あとは新聞が数誌



「引っ越ししたからって気ぃ抜いて勉強せぇへんとあかんと思ってな」

「ちゃんとやるって、言ってるじゃないですかっ」

「んなら えぇけど。とりあえず、そこん中にやる事 書いてるから。明日までにやっといてな」

「明日⁈」

「そっ、明日。これから試験までの6ヶ月間、月曜〜金曜は、俺が家庭教師やから」

「はいっ⁈」

「試験勉強の他にも、覚えてもらわなあかん事、たくさんあるしな」


「おぉ、ヤス、来たんかいな。上がってき」

まるで我が家かのように、安田さんに上がるよう勧める信ちゃん



「えぇよ。俺、明日からここ来ないかんし」

「ここって⁈」

「あぁ？ここやなかったら、どこで勉強すんの？勉強専用部屋なんて借りられへんやろ？」

「…はい……」

「明日、10時に来るから」

「はぃ……」



10時っ、早すぎるっ……

なんて事、勿論 口には出せず、バタンと閉まったドアの前で大きくため息


「ヤス、気合い入ってたなぁ」

「あれは、本気やな」

後ろでクスクス笑う2人に

「うるさいっ！」

大きな声で当たってしまった




月曜から金曜は、毎日安田さんが家に現れ、付きっきりで勉強

管理栄養士の試験勉強の他にも、経済 経営の勉強も始まって

週末はクタクタ



でも

「こんにちは〜」

土曜の午後は特別



「Aちゃん、どーも」

「マルちゃん、今日は何？」

「今日は 中華やでっ」


なるべく多くのレシピを頭に叩き込めと安田さんに言われて、開店前の裕くんのお店を借りて、週一で行われる料理の勉強会

「エビチリとぉ、麻婆豆腐とぉ〜…」


そしてこの人が、先生の丸山 隆平さん

信ちゃんの大学の後輩で、元々は料亭の板前さんだったけど、色んな国の料理に興味を持ち、板前を辞めて世界一周の旅へ

丁度 帰国したところに信ちゃんから連絡が入ったそうで、現在に至る




「どう？勉強は順調？」

「それがねっ、聞いてくれる？安田さんがっ…」

1週間分のグチをぶちまけ


「お疲れさ〜ん」

裕くんと一緒に、お店の開店準備をして


「おぅ、来たで〜」

信ちゃんと一緒に、少しだけお酒を呑む


そして日曜日は、泥のように眠る





そんな1週間を、悔いのないように 1日 1日 過ごしていく

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